表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

平成23年3月5日。

私はママと愛知県芸術劇場にやって来た。

「金閣寺」というお芝居を観るのだ。

ナントカいう偉い人の有名な作品なのだそうだ。しかし、ママのお目当ては主役の人気アイドルV6の森田剛くんだった。私はママに誘われたのだが、NHK朝ドラ「ウェルかめ」や、ミュージカル「テニスの王子様」に出ていた大東俊介が出るというので、観に行くことにした。


席は二階だけど、中央のいい所で、ママもやるなあと思った。


と、私たちの隣の一つ空いた席に一人のじぃちゃんがやって来た。

美事な銀髪と口ひげで、焦げ茶色の着物。緑色の羽織には雪だるまの絵が散らしてあった。


私とママは立ち上がって、じぃちゃんを通してあげた。


「ダンケ、ダンケ」

「???」



やがてキャストが次々に舞台に出てきて、客席は暗くなり、お芝居が始まった。



あるお寺の子が、吃音に悩んでいて好きな女の子にもいじめられている。

しかし、その女の子は脱走兵と駆け落ちしようとして、銃殺されてしまう。

やがて、その子は金閣寺に修行に出る。


そこでとても優しくハンサムな少年と友情を育む・・・って友情なのかな?もしかしてBL?六十年前に、こんなぶっ飛んだ話を書くなんてやるぅ!

このお芝居意外と拾いものかも。

「ラストフレンズ」や「流星の絆」も真っ青かも。



ところで、私はちょっとビビったこともあった。


森田剛くんが本格的に台詞を言い出したら、じぃちゃんが泣き出したのである。

涙ぐむとかでなく、ボロボロと涙をこぼしていた。

あっ、もしかしたら関係者なのかな?


さらに驚くことには、私はじぃちゃんがキャストより一瞬早く台詞を言うことに気づいた!


「絶景かな、絶景かな」

「仏に逢うては仏を殺し」

「僕を疑うんか」


そして台詞を言ったじぃちゃんは涙をボロボロとこぼすのだった。


最初の幕間、私とママがホワイエのビュフェに行くと、じぃちゃんはちょうどいて、黄金色のシャンペンを飲んでいた。



私とママはコーヒーを飲んだ。


「私たちには難しいわね」

ママがそう言うと、じぃちゃんが私たちの方を見て驚いた顔をした。しかし、その瞳は優しかった。


「失礼ですが・・・」

じぃちゃんが私たちに話しかけてきた。


その内容は初めて聞く、面白く、驚くべきものだった。



この「金閣寺」というのを書いた三島由紀夫という作家はとても偉い人で、アカデミー賞の常連のガス・ヴァン・サント監督の「小説家を見つけたら」という映画の中にもオマージュが出てくるのだそうだ。そして、その三島という人は海外の古典や名作と、日本文学を巧みに融合させたので、世界的に評価されたんだって。


この「金閣寺」はトーマス・マンというノーベル文学賞をとった作家の「トニオ・クレエゲル」という作品を裏返したとのこと。



「裏返したってどういう意味ですか?」

「トニオ・クレエゲルは芸術家として生まれ、友人や社会から疎外されているんですが、最後は人々や社会と和解するのです。それに比べて『金閣寺』では美にとりつかれた主人公が世界と対立し、破滅、崩壊する・・・」


「えっ!じゃあ、最後はハッピーエンドじゃないんですか?」


じぃちゃんはふっと口をつぐむと、遠い眼をした。


そうしたら第二幕が始まるとアナウンスが流れ、私たちは客席に帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ