前世での縁
その人は言った。
「あなたの前世は宮廷のピアニストです」
前世占いなんて気乗りしない。
それなのに無理矢理連れてこられたこの場所で聞いたこの言葉。
「そう、ですか」
私の心は穏やかにその事実を受け止めていた。
「どんな人だったのですか」
前世占いなんて馬鹿らしい。
そもそも私は前世なんて信じないから。
「そうですね」
占い師は少し間を置く。
私の予想が正しければ……。
「とても熱心な方でした」
「そうですか」
「はい。宮廷で誰よりも熱心な……」
「音楽が好きだったのですか?」
「はい。おそらくは誰よりも……」
私は微笑む。
どうやら。
にわかには信じがたいけれど。
この人は真実を語り、それ故に前世というのも真実である――そう思わざるを得ない。
「では、最後の質問」
いいえ。
最後の確認と言ったほうがいいかも。
「私の腕は?」
「……あー」
その人は間を置いて答えた。
「それは。あなたが……その、一番よくご存じなはずです」
私は笑う。
「そうね。その通り」
*
家に戻り、私は無理をして購入したピアノを見つめる。
触れる鍵盤。
けれど、音は鳴らさない。
今はただ触れていたいだけだったから。
「ねぇ。聞いて? あなたと私は今世での出会いだけれど……」
赤子の時、両親が何に興味を持つか試してみたことがあるらしい。
その時、私は真っ先に音楽に興味を示したと聞く。
良い両親のもとに生まれた私は音楽の道を目指せた。
目指し続けられた。
「私は前の人生からずっと、音楽が好きだったんだって」
今世での出会いのピアノを通じて、信じられない前世の記憶を感じるなんて。
「あなたもついてないね。主がこんなに――」
指に力を入れる。
奏でられる音。
音楽にならない。
辿々しい音が連続していく。
そう。
私には音楽の才能がなかった。
「下手くそなんてね」
けれど、構わなかった。
誇らしいほどだった。
なにせ、私は自分が自分でなかった頃から好きなものが変わらなかったのだから。
命変われど好きなものは変わらなかった。
「私の腕は数百年仕込みってことかしら」
数百年。
あるいはもっと以前から進歩のない腕を初めて誇らしく思えた。
不協和音。
今日も私の耳にしか届かない愛おしい音。
私はこれからもきっと、この芸術を愛し続けるだろう。




