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公開基金

私は公開基金について考えていた。

しかし、これは一応領主の意見を聞いておかないといけない。そう思っていたところ、領主から呼び出しがあった。


私はハンケルと共に領主の元に向かう。


領主は先日とは違い、上機嫌のようだった。


「君の施策、あの交通規制はなかなか効果があったようだ。

そのお陰かどうかはわからないが、税収が上がっている。

なんだね。税収が上がった理由は?」

と領主は尋ねた。


「私が行ったのは、両通行だった道を一方通行にしただけです。

今回行った箇所は、街の中でもっとも馬車同士の衝突が多かった場所です。

この施策により、馬車の衝突がこの区間ではなくなりました」

と私は答えた。


「申し訳ないが、私は愚鈍なようだ。衝突がなくなったら、なぜ税収が増えるのかね」

と領主は顎を触った。


「衝突がなくなることで、商会の間接費が減るのです。例えば、荷物の出し入れがスムーズになる。従業員や馬のケガが減る。そういう間接費を削減することで、純利益が上がり、商会などの税が増える。そういう仕組みです」

と私は答えた。


「おぉ。なるほど。そういうことか。それでだ。

この一方通行の規制を、もっとやってくれという陳情が出ておるのだが……、

これはなぜ放置しているのだ」

と領主は尋ねた。


「いえ、放置はしておりません。予算に限りがあるため、効果的に展開できる地点を吟味しております。もしかして、今日お呼びになったのは、予算の増額をしていただけるということなのでしょうか」

と私は尋ねた。


「いやいや。

そうではない。

予算は厳しい。

しかしだよ。税収が上がるとなると、

当家としても、

早々に展開してもらいたい。

そう思うのだよ」

と領主は鼻をかいた。


「わかりました。努力いたします。

それで予算の増額は可能でありますか?」

と私は再び尋ねた。


「なにに予算がかかるのだ」

と領主は眉をひそめた。


「一方通行にした場合、その煽りを受ける店が1割ほど出ます。その店の転居の支援等に使いたいと思っております」

と私は答えた。


「一割ほどなら捨て置けばよいのではないか?」

と領主は言った。


「では、領主様直々のご命令ということで、命令書を出してください。

私は奉行という立場ですから、民からの攻撃を一身に受けます。

その立場を曖昧にされたまま、指示を行われたのでは、部下たちを守れません」

と私は答えた。


「まぁそこまで堅いことを言うな」

と領主は手を組んだ。


「では、私から一つ提案があります」

と私は言った。


「なんだ提案とは?」

と領主は尋ねた。


「今、私どものこの一方通行に感銘を受け、寄付したいという者がおります。

この者達の寄付を受け、公開基金とします。


公開基金の使用意図は、

・交通規制による被害者の救済

但し保障ではなく、

移転場所への引越し代金や敷金などの補助

に限定します。

この基金を作り、この運用をする許可がいただけるなら、施策を早めることは可能です」

と私は答えた。


「なるほど。それだと当家の腹は痛まぬわけだな」

と領主はにやっと笑った。


「左様にございます。ただ私としては、独断で行っていると思われるのは困りものですから、領主様に相談役になっていただきたい。

また癒着を疑われては困りますので、全ての結果については議事録で公開したいと思います」

と私は言った。


「……腕っぷしで黙らせてきた君らしくはないが、まぁいいだろう。それでやりたまえ。

それと、あれか。その通りの住民同士の話し合いで、例えばどこかが移転しないといけないとなった時に、得をする連中が、その損をする店に移転費用などをやれば。それで皆が納得できたら、一方通行の規制はできるのかな?」

と領主は尋ねた。


「そうですね。その時に人員がいればの話ですが、標識だけで済むのなら話は別ですが、当面は職員が立つ必要があるので」

と私は答えた。


「失礼ながら、そこに立つのは、なにも職員でなくとも、その地域の商会などの者が一時的に立つとかでも可能かとは思います」

とハンケルは言った。


「よし。わかった。まず、その公開基金の件は許可するし、私も相談役になろう。

あとは、陳情があり、その取りまとめをしている地域は、優先してやってくれ」

と領主は言った。


「かしこまりました」

と私は答えた。


「では今日の話はここまでだ。よろしくやってくれ」

と領主は言った。


「失礼いたします」

と私とハンケルは頭を深く下げ、屋敷をあとにした。


……

領主への根回しというストレスのかかる仕事をやり終え、

私はクタクタになっていた。

私はハンケルに送られ、

少し早い帰宅をした。


「ただいま」

と私は言った。


「あっ、お父様だ」

とピノは私にかけより、脚に抱きつく。


「おかえりなさい。今日は、早かったのね」

キャサリンは笑った。


「今日は領主様のところに行ってね。

疲れたんで、早く帰ってきたんだよ」

と私は答えた。


「領主様怖かった?」

とピノは私を見上げる。


「あぁ、とても緊張したよ」

と私はピノの頭をなでる。


「お母様とどちらが怖いの?」

とピノは尋ねる。


「ピノ……、なに言ってるの。お父様が困ってらっしゃるでしょ」

キャサリンは笑った。


「いや。キャサリンはとても優しいよ。怖くはないよ」

と私は言った。


「じゃあ、愛してるの?」

とピノは不思議そうな顔をした。


「なに言ってるの」

キャサリンはピノの頭をなでる。


「もちろんさ」

と私は笑った。


キャサリンは照れくさそうにしている。


「でもお母様。お父様が最近キスもしてくれないのよ。

頭を打って愛がなくなったのかしらって、

心配してたわ」

とピノは不思議そうに言った。


「もうピノ……」

キャサリンは真っ赤な顔をしている。


私は頭が真っ白になった。

私は前世で女性経験がなかった。

ただそれだけだ。

映画やドラマなどで、キスをしているのを見たことはある。

街中で見たこともある。

でもだからといって、できるわけでもない。


体の肌と肌を触れ合うということでいうと、

握手と一緒だが、

唇と唇が触れ合うということは、

まるで意味合いが違ってくる。



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