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波紋と圧力

データを公開してから、状況が動き出した。

売上が低迷していた店の売上が以前より少し上がったのだった。

理由はシンプルで、

損失を回避した商会の従業員と、

近隣住民が積極的に利用するようになったことにあった。


あの話を聞いたパン屋も、売上が上がったと喜んでいた。

反面、売上が増えない店もあった。


俺は、

今回の施策で損失が削減された商会に寄付金を求めた。

その寄付金を使い、損失の出ている店の配置転換を行うためである。


しかし……、

私の選択は間違っていたのかもしれない。


「なぜ俺たちが払う?」


「奉行の横暴だ」


「実質増税だ」


「特定の商会と癒着している」


との批判が相次いだ。


そして商会連合の反発が起こった。


「寄付は任意と言いながら、断れる空気ではない」

と……。


私の胃はキリキリと痛みを増す。


「奉行、そこまでやる必要がありますか?」

とハンケルは言った。


痛みの解決をと思ったが、

私の権限でも、

どうしようもできないこともあるのだと自覚した。


私は領主から呼び出しをくらった。

領主は冷めきった目でこう言った。

「君にそこまでの権限を与えた記憶はない」

と……。


実績を見せようと、書類を手渡したが、護衛に拒否されてしまった。


私の嫌な記憶が思い出される。

スジ屋として、スジを通せば通すほど、苦しくなった。

同僚には、上司には逆らうなと、

何度も言われた。

俺も奉行という立場はあるが、結局サラリーマンなのか。

そう思った。


私は、今回反対した者を全てリストアップした。

別に仕返しをするつもりではない。

ただ記録しておくだけだ。

そしてその中には領主も含まれた。


私もスジ屋時代、こういったリストを作ったことがある。

その時も、特に仕返しをするつもりはなかったが、

この人は、こういう案件にはクレームを出すという。

条件分岐を知っておけば、

無用なトラブルが避けられる。


つまり、

このデータがあれば、

優先的に施策を行う場所が特定しやすくなるということだ。


……

私の元には、

他の場所からも道路規制を行ってくれという要望が寄せられ始めた。


私は自宅でハンケルと食事をしていた。


「奉行、どうしましょう」

とハンケルは頭をかいた。


「どうした。何を悩んでいる」

と私は尋ねた。


「いえ。

効果が出るのはわかりましたが、

また売上が下がったとか、

手当とかそういうのを考えると、

頭が痛いです」

とハンケルは眉をひそめた。


「まぁでも彼の評判はいいわよ」

キャサリンは笑った。


「そいつは意外だ。私は嫌われ者だと思っていた」

と私は笑った。


「いや。感謝している者も多いですよ」

とハンケルは言った。


「そうよ。お金を出すのが嫌だって言ったけちん坊がいただけでしょ。

そんな人がいる場所は、後回しにしてやれば良いのよ」

キャサリンは握りこぶしを見せる。


「そいつは良いね。その手は使えそうだ」

と私は笑った。


「まぁ揉めそうですけどね」

とハンケルは頭をかいた。


……

私たちは、規制を求めるところのうち、今回寄付に同意しなかった者がどれだけいるかを調べ上げた。


すると半数が、寄付には同意しないが、通行規制は求めていることがわかった。


「半数が寄付には同意しないのに、通行規制は求めるか……」

と私は頭をかいた。


「私、良いこと思いついたわ。まず売上に影響がなさそうな所から始めてみれば」

キャサリンは言った。


「そうですね。今回の件だと、まず宿屋に関しては売上に影響がありませんでした。

この通りは宿屋しかありませんので、ここを先にしてみてはいかがですか?」

とハンケルは答えた。


「なるほどな。ではそれで宿屋側と打ち合わせしてみてくれ」

と私は言った。


ハンケルは宿屋と話をし、数日で規制までこぎつけた。

今回は宿屋があらかじめ理解していたことから、

混乱なく、ただ衝突がなくなり、スムーズになった。

恩恵を受けたのは、宿屋だけではなく、

宿屋に商品を入れる商店や、客を搬送する馬車にまで及んだ。

宿の稼働率も10%ほど上がったらしい。


私はそのことを聞き、宿屋の店主などに、知り合いに吹聴するように求めた。


……

私が執務室で仕事をしていると、ハンケルが慌てて飛び込んできた。


「大変です。モンスン商会が寄付をすると言ってきました」

とハンケルは言った。


モンスン商会……、

あぁあの前に聞いたところか。


「それで、なぜモンスン商会が?」

と私は尋ねた。


「いえ、わかりません」

とハンケルは答えた。


私はリストを見る。

反対者のリストの中に、

しっかりと書かれてあった。


私はとっさに思った。

これは断ろうと。


「断ってくれ」

と私は答えた。


「ちょっと待ってください。これで手当ができるのですよ」

とハンケルは訴えるような目で見つめる。


「……こう答えてくれ。

受け取る道理がない。

私は横暴を行わない。癒着もない。増税する気もないと」

と私は言った。


ハンケルは悟ったようにうなづいた。


……


3日後、

モンスン商会から一通の書状が届いた。

ーーーー

拝啓 奉行殿


私ども、

モンスン商会は貴殿の施策に感銘を受けました。

そこで、

ぜひ貴殿の事業に使っていただきたく、

寄付をいたしたく思います。

もちろん、これは何かの便宜供与を願うとか、

そういう類のものではありません。

ただ感銘を受け、商人としてお力になりたいだけなのです。


モンスン商会 番頭

ーーーー


なるほどな……。

こう来たか。


「どうしますか?」

とハンケルは渋い顔をしている。


「どうした」

と私は言った。


「なんか怪しい臭いがぷんぷんします」

とハンケルは苦笑いをした。


「そうだな。そう思うだろう」

と私は笑った。


「しかし、捨ておくのももったいない気が……」

とハンケルは言った。


「私もだ。そうだな。リスクは何だと思う」

と私は尋ねた。


「賄賂と見られるのが、致命的なリスクです」

とハンケルは答えた。


「そうか。賄賂と見られない方法はあるか?」

と私は尋ねた。


「そうですね。公開基金とすればいかがですか?」

とハンケルは答えた。


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