表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/12

宿場総奉行


「えぇバターならありますよ」

キャサリンはバターを取り出した。


「私が知ってるスープを作ってみよう。

美味しいかどうかは、保証しないが……」

と私は答えた。


「なにそれ面白い」

とピノは笑った。


「では、お父様に任せよう」

キャサリンは笑った。


そこから、キャサリンにいつものスープのレシピを聞きつつ、

最後に少量のバターを加えた。


「いつものメニューとほとんど変わりませんね。

バターを足すだけですか?」

キャサリンは不思議そうな顔をしている。


私は味見をする。

あぁこれだ。


「味見をしてくれるかい」

と私は尋ねた。


「私、味見する」

とピノは言った。


「じゃあ少しいただきましょうか」

キャサリンは笑った。


ピノとキャサリンが味見をし、

表情が止まる。

あれ……、

マズかったのか?

もう一度、

ピノとキャサリンは味見をし、

目を見合わせる。


「美味しい」

と二人は言った。


二人は完全に私をスルーして、

スープを椀に入れ、一気に飲み干した。


「どうだい」

と私は尋ねた。


「お父様好き」

とピノは言った。


「あなた最高よ」

キャサリンは笑った。


私は味噌汁にバターを入れた日のことを思い出した。

味噌汁にただ野菜を入れると、野菜の味が強くなり、

野菜があまり好きではない私にはキツい味になる。

しかし、

同じ味噌でも、

味噌ラーメンの野菜は好きだった。

豚汁も好きだ。

そうか……、

脂肪分か。

はじめは、

豚の脂肪だけを入れた。美味かった。

ベーコンの脂身だけでも美味かった。

そして最終的にバターにいきついた。


既存の街の交通に、

一方通行という変数を入れただけ。

既存の野菜スープに、

バターという変数を入れただけ。


それだけで、まったく違う世界になってしまう。

そのことに改めて気づかされてしまった。


一本の線を引くだけで、

世界は美しいダイヤになり、

秩序が生まれ、利益が生まれ、喜びが生まれる。


「気に入ってもらえたならよかった」

と私はピノの頭をなでた。


「いえ。

お父様、甘いわ」

とピノは言った。


「どうしたの。ピノ」

キャサリンは不思議そうにピノを見つめる。


私は様子をうかがう。

なにか……。

まずいことでもしてしまったのか。


「これは革命よ」

とピノはスプーンを天井にかかげる。


「なに言ってるの」

キャサリンは笑った。


「そうだよ。大げさだよ」

と私は言った。


「お父様もお母様もわかってない。これは全お子様の救世主になるわ」

とピノは叫んだ。


「どういうことだい」

と私は尋ねた。


「お父様もお母様も昔は子供だったから、わかると思うけど、子供は野菜スープが苦手なのよ。でもこれなら何杯もいけるわ。お父様は子供の救世主なのよ」

とピノは言った。


「たしかに、そうよね。私も野菜スープは苦手だった。

でもバターを入れれば変わるかも」

キャサリンはうなづいた。


「じゃあ。皆でバターをいれたら美味しいよと、知り合いに伝えるのはどうだい?」

と私は答えた。


「そうね。私もお友達とかに言うわ」

とピノは手をあげた。


「じゃあ、私も」

キャサリンは手をあげた。


「じゃあ、私も」

と私も手を上げた。


そんなわけで、

野菜スープにバターを入れる方法は、

あっというまに宿場町全体に広がった。


……

そして、休暇があけ、

領主に呼び出された。

少し嫌な予感がしたので、ハンケルにも来てもらう。


「しかし、休み明け早々、何の用なのでしょうね」

とハンケルは言った。


「面倒事じゃなければいいが」

と私は頭をかいた。


「そういえば、あのバターの件、町中の噂ですよ。

奉行様は救世主だとか。

あれ実際感動しました。

うちの息子。

野菜嫌いなのがすっかり直っちまって、

ありがとうございます」

とハンケルは頭を下げた。


「よしてくれ。

たいしたことはしてない」

と私は答えた。


領主の屋敷につくと、

領主はニコニコしている。


「なにか良いことでも」

とハンケルは尋ねた。


「いやぁ。あの宿。

ずいぶん利益が出てね。

ほくほくだよ。

1か月たたないうちに、改装費は回収できるし。

本当にありがとう」

領主は私の手を握った。


「いえ。やれることをやっただけです。ところでご用件は」

と私は尋ねた。


「うちの領内の宿場総奉行を、君にやってもらおうと思ってね」

領主は笑った。


「宿場総奉行?そんな役職ありましたっけ」

と私は尋ねた。


ハンケルは首を横にふる。


「いや。君のために作ったポストだ」

領主は私の目をじっと見た。


宿場総奉行

宿場奉行を束ねる仕事か。


「どのような仕事なのですか」

と私は尋ねた。


「宿場奉行を束ねる仕事だよ」

領主は答えた。


「つまり、この街で行った施策を横展開しろと」

と私は尋ねた。


「その通り」

領主は笑った。


これはつまり街道間の流れも制御できるということか?

だとしたら、美しいダイヤがもっと描けるかもしれない。


「あの……、

領主様が管理している街道間の制御もしてもいいのですか?」

と私は尋ねた。


「それも上手くできるのかね」

領主は目を大きく見開いた。


「おそらく、時間別で一方通行規制をすればいいだけの話ですから」

と私は答えた。


「それはスケールが大きい話ですね。街道間での衝突がなくなれば、効率化は一気に進みます」

とハンケルは身を乗り出した。


「効率化……。また税収をアップさせてくれるんだね。

よし、街道間の制御も任せよう」

領主は私の背中を叩いた。


……


そんな流れで、

私は宿場総奉行という大役を担うことになった。


私は前世でスジ屋として、

美しいダイヤを描くことに一生をかけた。


それは快感でもあったが、

同時に虚しいものでもあった。


大きなことをやっている実感はあったが、

私の元に届くのは、

文字列及び数字のデータのみだった。


今、私の手元には、

生きた人間の活気ある息吹が届いている。

それはプレッシャーでもあるが、

喜びでもあった。


道がどこまでも続くように、

人々の欲望もどこまでも続く。


私はその欲望に背を向けず、

しっかりと見つめて、

混沌から解放したい。

そう願った。


END


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ