表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

人馬休宿

セバスの手助けもあり、人馬休宿プロジェクトは急ピッチで実行された。


公開基金も、ハンケルが動いてくれたおかげで、スムーズに寄付を集めた。


ただ、問題がなかったわけではない。

いくつかの問題はあった。

一つの問題は、

人馬休宿に宿を組み込むかどうかの問題だった。


これまでの慣行でいうと、御者(馬車の運転手)は宿には泊まらない。

例えば貴族の移動などでも、貴族は良いホテルに泊まるが、御者は馬の近くで寝ることが多かった。


御者もそれが当たり前だと思っているから、宿を作っても泊まらないだろうと考える者が多かった。


ただ冬場には、それで凍え亡くなる者や、体調を崩す者も多く、この国では慢性的な御者不足に悩まされていた。


私はこの問題に対して、こう提案した。

「御者は交通の要を担う者です。このまま問題を放置しておりますと、将来御者の担い手がいなくなり、交通は人手不足という原因で崩壊してしまいます。

そこで、非常に簡易な宿を安値で提供するというのは、いかがでしょうか?」


「非常に簡易な宿……。どの程度簡易なのだ」

領主は尋ねた。


「まずスペース的には、ベッド一つ分のスペースにします」

と私は答えた。


「それでは気も休まらぬではないか」

領主は言った。


「それは領主様の感覚です。普段から野宿をしている者にとって、雨風をしのげ、清潔な毛布などがあるだけで、それは十分なのです」

と私は答えた。


「たしかに、それは一理ありますな。

しかし食事を出したりすると、それ相応の料金になりますぞ」

とセバスは言った。


「食事は出しません。近くに飲食店がありますので、そこで好きなものを飲み食いすれば良い」

と私は答えた。


「侍女の給金などはどうする」

領主は尋ねた。


「その簡易宿が提供するのは、場所と洗面器に入れた湯だけです。あとは日々毛布を干し、清潔に保ちます」

と私は答えた。


「なるほど……。

本当に最低限のことしかしないと。

しかしどこがその事業を行いますか?」

とセバスは尋ねた。


「もし領主様がされるのでしたら、領主様がしても良いでしょうし、そうでなくても、もともと簡易な宿泊所をやっているところがありますから、その宿泊所の別形態として提案してみても良いかもしれません」

と私は答えた。


「正直……、それは儲かると思うか?」

領主は尋ねた。


「そうですね。かかるお金は改装費と家賃、あとは人件費くらいでしょうから、十分採算は合うのではないでしょうか?」

と私は答えた。


「旦那様。旦那様がされるのでしたら、家賃はかかりません。当家の侍女を派遣して作業をさせれば、あとは改装費のみで、追加の費用はかかりません」

とセバスは領主に耳打ちをする。


あまりひそひそと話すわけでもなく、

こちらの耳にも入ってくるのが、

少しおかしかった。


「なるほど。御者は大事にしないといけない。当家がその事業を行おう」

領主は少し胸をはり答えた。


「御英断にございます」

と私は頭を下げた。


……


私たちは、

一か月もしない間に、人馬休宿を完成させた。

倉庫とはいえ、

もともとの建物があるので、

改装は最小限で済んだ。


そして、公開基金を使い、

飲食店と馬屋を移動させていく。

当初、移動を拒んでいた者たちも、

移動先で稼いでいる同業者を見て、

我先にと移動していった。


三ヵ月が過ぎたころには、

街中に馬屋はなくなった。


街は急速に再編されていく。


混沌と雑然にまみれていた町並みは、本来の姿を取り戻した。


私はスムーズに動く人馬を見て、

「美しい」

そう呟いた。


停滞していた一方通行規制だが、公開基金や、商人たちが移動資金を融通しあったことで、

ほとんどの道路に規制がかかることとなった。


この街で馬車同士の衝突が起こることは、ほとんどなくなった。


人馬休宿を作ったことで、

嬉しい副作用があった。

それは町中から馬糞の臭いが大幅に減ったことであった。

もともとこの国ではBSFブラックソルジャーフライという虫と豚を使い、糞尿を処理している。

しかし馬は走りながら糞をするので、この臭いが少し問題になっていた。

人馬休宿で馬が食事をすることで、街中で落ちる糞の絶対数が減り、悪臭問題もかなり解決した。


あと以前はよくあった、馬車での交通事故も大幅に減った。

両方から来る場合と、片側から来る場合とでは、やはり違うようだ。


……


私は、ほとんど休みを取らず、仕事に没頭していたこともあり、

領主から1週間の休みをもらった。


どこか家族でバカンスにでも行きたいところだが、

街にいろという命令で、街の外には出られない。

そこで家でノンビリすることにした。


「ひさしぶりの休みだ。なにしようか」

と私は尋ねた。


「なんでお休みなの。お父様ポンコツだから、お暇もらったの?」

とピノは言った。


「ピノ。どこでそんな言葉覚えてくるの。お父様は立派な方よ」

キャサリンはピノの口をふさぐ。


「まぁ私はね。外では有能だけど、父親としてはポンコツだよ」

と私は笑った。


「反省してるのね。許してあげるわ。せいぜい娘孝行と妻孝行なさい」

とピノは言った。


「ほんと。なに言ってるの」

キャサリンは笑った。


「そうだね、私も娘孝行と妻孝行をしてみたい。しかし、あいにくポンコツだから、何をしたら良いのかわからないのだよ。教えてくれるかい」

と私は尋ねた。


「そうね。世間のできる父親は、たまには手料理などを振る舞うものよ」

とピノは言った。


「そんな、ダメよ。お父様は料理はできないわ」

キャサリンは答えた。


私は一人暮らしをしていた前世のことを思い出していた。

野菜不足にならないように、味噌汁に多量の野菜を入れていたことを。

しかし……、

味噌はないしな。

あっちょっと待てよ。

バターならあるんじゃないか?


「バターはあるかい?」

と私は尋ねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ