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地味な派遣の私とエリート部長の秘密の関係。それは金曜夜にだけ現れる「ラーメン同盟」のはずが、いつの間にか溺愛されてます。  作者: 水凪しおん


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番外編2:麺屋がむしゃら店主の観察日記

 うちの店「麺屋 がむしゃら」には、ちょっと面白い常連がいる。金曜の夜になると、決まって現れる、変装したイケメンの兄ちゃんだ。いつもパーカーにニット帽なんぞ被ってるが、隠しきれないオーラってやつがある。立ち姿からして、カタギじゃない。いや、そっちの筋じゃなくて、きっとエリートってやつだろう。


 そいつは、いつも一人で来て、黙々とこってり豚骨をたいらげて、静かに帰っていく。ラーメンを食う時の顔が、そりゃあ真剣で、幸せそうで、見てるこっちも嬉しくなるくらいだ。よっぽど、普段の生活で気を張ってるんだろうなと、思っていた。


 そんな兄ちゃんに、ある時から変化が起きた。隣に、可愛らしいお嬢ちゃんを連れてくるようになったんだ。最初は、まあ、ぎこちないのなんの。お嬢ちゃんの方は緊張でガチガチだし、兄ちゃんの方は、なんだかぶっきらぼうで。こりゃあ、先が思いやられるな、なんて思いながら、こっそりチャーシューを一枚おまけしてやった。


 でもな、人間ってのは面白いもんだ。来るたびに、二人の距離が縮まっていくのが、カウンター越しによく分かる。最初は他人行儀だった会話が、だんだん楽しそうな笑い声に変わっていく。兄ちゃんの、あの氷みたいだった顔が、お嬢ちゃんといる時だけは、ふにゃふにゃに緩むんだ。お嬢ちゃんの方も、兄ちゃんを見る目が、どんどん熱っぽくなっていく。甘酸っぱいねえ。


 こりゃあ、ただの知り合いじゃないな。俺の長年の勘がそう言っていた。だから、応援したくなった。二人が来た時は、いつもより気持ちを込めてスープを炊き、麺を湯切りする。美味いラーメン食って、もっと仲良くなれよ、と。


 ところが、ある時期、ぱったりと二人が来なくなった。最初は、忙しいのかなくらいにしか思っていなかったが、一ヶ月も経つと、さすがに心配になる。喧嘩でもしたのか? それとも、何かあったのか? いつもの金曜の夜、二人が座っていた席が空いているのを見ると、なんだか寂しい気持ちになった。


 だから、あの夜、久しぶりに兄ちゃんが一人で店に来た時は、驚いた。しかも、連れてきたのは、別のお嬢ちゃん。なんだい、兄ちゃん、乗り換えたのかい。そう思って、少しがっかりした。でも、兄ちゃんの顔は、今まで見たことがないくらい、追いつめられたような、悲しい顔をしていた。


 そのお嬢ちゃんが先に帰って、一人残された兄ちゃんは、手付かずのラーメンをただじっと見つめているだけ。その背中が、あまりにも寂しそうで、声をかけることもできなかった。


 ああ、やっぱり、いつものお嬢ちゃんじゃなきゃ、ダメなんだな。


 そう思った数日後のことだ。今度は、変装もしていない、スーツ姿の兄ちゃんが、あのお嬢ちゃんを連れて、堂々と店に入ってきたんだ。二人とも、吹っ切れたような、幸せそうな顔をしていて。ああ、色々あったけど、ちゃんと乗り越えたんだな、と。俺は、なんだか自分のことのように嬉しくなっちまった。


「兄ちゃん、良かったな。そのお嬢さん、大事にしろよ」


 思わず、そう声をかけちまった。兄ちゃんは、照れくさそうに、でも、力強く頷いてくれた。


 いいんだよ、お前さんたちは。うちのラーメン食って、くだらないことで笑い合って、そうやって幸せになりゃあいいんだ。


 よし、今夜のスープは最高だ。二人の未来を祝して、俺はこっそり、特大のチャーシューを二枚、丼に沈めてやった。

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