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(2) 由良の静かな日常
朝の光が差し込む部屋。
窓の外で、小鳥が鳴いている。
由良は机に向かい、書物を開く。
古い頁の匂いが、わずかに立つ。
記されているのは、嫉妬の術式。
絡まりやすい感情の構造。
ほどく順序。
指先は落ち着いている。
迷いはない。
必要だから、調べる。
今度は、間違えないために。
机の端には、便箋が一枚。
まだ封をしていない。
短い言葉が、整った文字で並んでいる。
何度も書き直した跡はない。
由良は筆を置く。
窓から差し込む光が、白い紙を照らす。
「……今度こそ」
声には出さない。
幸せは、願うものではないと知っている。
作るものだ。
本を閉じる音が、静かに響く。
遠くで誰かが笑っている。
その声に、由良の視線がわずかに柔らぐ。
まだ届いていない想いではない。
すでに、ここにある。
ただ、今度は失わないだけだ。
由良は便箋を折る。
封は、まだしない。




