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(1)リエルの影
森の小道を、少女が歩いている。
足音は軽い。
重さも、迷いもない。
何かを失ったという自覚もない。
視線の先、土の中に淡い光。
少女はしゃがみこみ、それを拾い上げる。
小さな龍鱗。
掌に乗せた瞬間、
胸の奥が、わずかに震えた。
理由はわからない。
悲しいわけでもない。
嬉しいわけでもない。
ただ、手放したくないと思った。
少女は首をかしげる。
どうしてだろう。
答えは出ない。
それでも、龍鱗を胸元にしまう。
そこがいちばん安全だと、
身体が自然に判断していた。
胸の奥が、ほんのりと熱を持つ。
小さな、確かな温もり。
風が吹く。
森は静かだ。
少女は立ち上がる。
真っ直ぐに前だけを見つめる瞳。
名前も、過去も、幸せも、
まだ何も持っていない。
けれど、
その小さな欠片だけが、
彼女の“最初の一歩”だった。




