(2)小さな犠牲
誰の名前も、顔も、語られない。
だけど、失われたものは確かにそこにある。
大地は静かに呼吸を取り戻したかのように見える。
だが、海は割れ、山は噴火跡を残し、焦げた森の跡は残っている。
かつて流れた溶岩や土砂の跡が、まだ冷え地面に刻まれている。
街の建物も、屋根が落ち、壁はひび割れ、道には壊れた鎧や兵器の一片が散乱したまま放置されていた。
風が静かに吹き抜け、光が揺れる影を作る。
空は高く、澄み、どこまでも静かだ。
力を失った者。
役目を終た存在。
記憶の片隅だけを残して
もう二度と戻らない誰かを弔う人々。
森の奥、倒れた木の陰にひっそりと佇む小動物たち。
家族の顔を思い出せない老人。
小さな村で、子供の手から落ちたおもちゃ。
誰も大声で泣かない。
誰も助けを呼ばない。
それでも、欠けたものがあることを、世界はそっと見せていた。
風は冷たくも優しく、焦げ跡や瓦礫に触れて、時間の痕跡をなぞる
一方で、瓦礫を片付け、倒れた家を修復し、再び歩き始める者たちもいる。
手を取り合い、光の方向を見つめる人々。
小さな希望はまだ、ゆっくりと息を吹き返していた。
空は高く、風は静かに吹き抜ける。
光が差し込み、揺れる影がひとつひとつの空白を照らす。
世界は守られた。
でも完全ではない。
そして、その隙間に、静かに息づく何かがあることを、誰も気づかない。
光が揺れる影は、まるで世界の呼吸そのもののように、ひっそりと動いていた




