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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第18章|惟神の道
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(4)惟神の道

(直×橙生)


橙生は、音もなく隣に立っていた。


気配はあるのに、足音がない。


「直」


低い声。


名前を呼ばれただけで、背筋が伸びる。


「最近、距離を取ってるな」


否定しかけて、やめる。


この男に誤魔化しは通じない。


橙生は腕を組む。


責めない。


ただ、真っ直ぐ見てくる。


「怖いか」


短い問い。


心臓が跳ねる。


「……何がですか」


「藤紫が、お前より先に行くことが」


逃げ場がない。


言い訳もできない。


沈黙が落ちる。


橙生は目を細める。


「守りたいのか」


「それとも、置いていかれたくないのか」


答えは両方だ。


だが、それを口にできない。


橙生は小さく息を吐く。


「どっちでもいい」


意外な言葉だった。


「大事なのはな」


声が低く、静かに落ちる。


「逃げるな」


胸を撃ち抜かれた気がした。


「距離を取るのは賢いようで、ただの保身だ」


「隣に立ちたいなら、怖くても立て」


それだけ言って、橙生は背を向ける。


「藤紫は、お前が思ってるより強い」


一瞬だけ振り返る。


「でもな。強い奴ほど、隣にいる奴がいなくなると脆い」


その言葉が、重く残る。


―――――――――――――――――――

(視点:藤紫)


同じ頃。


藤紫は寝室の窓辺に立っていた。


夜風がカーテンを揺らす。


直の気配が、遠い。


物理的ではなく。


心が、少しだけ離れている。


どうして。


声に出せない。


引き止める言葉を持たない。


姉として、ずっと面倒を見てきた。


泣けばあやし、


怪我をすれば叱って、


守る側だったはずなのに。


いつの間にか、


自分の方が安心していた。


直が隣にいることに。


「……わたし」


呟きが夜に溶ける。


いないと、困る。


それは弱さ?


それとも――


「……ずるいよ」


目を伏せる。


言えない。


でも、離れてほしくない。


―――――――――――――――――――


夜。


大規模な揺らぎ。


空気が軋む。


直は前に出る。


恐れはある。


だが、逃げない。


術式を展開。


しかし一瞬、集中が乱れる。


その刹那。


藤紫が直の袖を掴む。


「直」


小さな声。


でも、はっきり。


「わたしは、あなたの姉よ」


その言葉に、胸が震える。


「先に行かない」


真っ直ぐ見上げる。


「だから、置いていかないで...」


強くはない。


泣きそうでもない。


ただ、必死だった。


直の中の何かが、ほどける。


ああ。


守るだけじゃない。


この人は。


ずっと自分の帰る場所だった。


「……姉ちゃん」


久しぶりに呼ぶ。


藤紫の指先が、少しだけ震える。


術式を再構築。


背中合わせ。


呼吸が重なる。


二人分の力が重なり、


揺らぎは静かに閉じる。


夜が戻る。


―――――――――――――――――――


静寂。


藤紫は、まだ袖を握っている。


直はその手を、そっと包む。


強くじゃない。


離れない程度に。



「離れない」


短く言う。



「隣にいる」


藤紫は小さく頷く。


「うん」



それだけ。


でも十分だった。



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