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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第18章|惟神の道
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(3)惟神の道

(視点:直)


呼び出されたのは、昼過ぎだった。


執務棟の奥、小さな応接室。


リエルは窓際に立っていた。


振り返る。


「来てくれてありがとう、直」


いつもの声だ。


柔らかく、少しだけ無邪気さを含む響き。


「座って」


向かいに腰を下ろす。


沈黙は、重くない。


けれど、逃げ場はない。


「ねえ、直」


首を少し傾ける仕草。


「あなた、藤紫の隣に立ちたいのよね」


問いではない。


確認。


「……はい」


「うん」


リエルは微笑む。


「それはね、とてもきれいな願いだと思うの」


その言葉に、胸がわずかに緩む。


だが、続きがある。


「でもね」


声は変わらない。


優しいまま。


「“隣に立つ”って、どういうことかしら」


直は答えを探す。


覚悟。


責任。


支えること。


いくつも浮かぶ。


けれど、どれも決定打にならない。


「……支えること、だと」


「うん。それもあるわね」


リエルは頷く。


「じゃあ、もし藤紫があなたよりずっと先に進んでしまったら?」


その言い方は、残酷ではない。


ただ、事実の可能性を置くだけ。


「それでも隣に立てる?」


喉が詰まる。


想像してしまう。


龍として成熟する藤紫。


自分は、ただの人間。


取り残される未来。


「……立ちます」


即答できなかった。


その一拍が、自分でも分かる。


リエルは、それ以上追わない。


ただ、静かに笑った。


「焦らなくていいのよ」


その目は、優しい。


けれど見透かしている。


「迷っている自分を、ちゃんと知っておきなさい」


それだけ言って、話は終わった。


―――――――――――――――――――


その後の任務。


境界域の揺らぎ。


小規模だが、不安定。


本来なら即断即決。


だが、直の思考はわずかに遅れた。


――もし誤ったら。


――また測られているのではないか。


確認を重ねる。


安全を取る。


その数秒。


結界がひび割れる。


藤紫が一歩前に出る。


「……抑えます」


小さな声。


けれど、揺るがない。


術式が展開される。


無駄がない。


静かに、正確に、収束する。


直は補助に回るしかなかった。


終息後。


沈黙。


「ごめんなさい」


自分から言う。


藤紫は、少しだけ首を振る。


「……無事で、よかった」


責めない。


怒らない。


ただ、それだけ。


その優しさが、胸に痛い。


―――――――――――――――――――


その夜。


直は距離を取った。


意図的に。


補佐としての位置に徹する。


視線を合わせない。


必要以上に近づかない。


藤紫は何も言わない。


ただ、ほんの少しだけ


間が、空く。


名前を呼ぶまでの間。


指示を出すまでの間。


そのわずかな沈黙が、増えていく。


――これでいい。


未熟なまま近づくよりは。


そう思うのに。


胸の奥が、ひどく冷える。



―――――――――――――――――――


廊下の向こう。


リエルはその様子を見ていた。


「……あら」


小さく、息をこぼす。


「思ったより、傷が深いのね」


風が吹く。


誰も気づかないまま。



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