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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第17章|成長と選択
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(9) 既に知っている者

(視点:赤月)


紫苑の部屋は、静かすぎる。


書棚の影。 灯りは最低限。 外の音も届かない。


「珍しいな」


入室を許されるなり、紫苑は視線を上げずに言った。


「お前が直接来るとは」


赤月は一礼し、言葉を選ぶ。


「確認したいことがある」


「報告書なら読んだ」


「それとは別だ」


紫苑の手が止まる。


わずかな沈黙。


「……直のことか」


問いではない。


赤月は、息を止めた。


「気づいていたのか」


紫苑はようやく視線を上げる。


その目は驚きもなく、 焦りもなく、 ただ、静かだった。


「いつからだと思う」


赤月は答えられない。


紫苑は淡々と続ける。


「神路に近づく以前からだ」


「……!」


「近づかなかった。あの子は。 怖がったのではない。 理解していたからだ」


赤月の胸が重くなる。


「なら、なぜ何も」


「何をする」


言葉が、切る。


「止める必要がなかった」


「だが、あれは」


「越えていない」


紫苑ははっきりと言った。


「越えない選択を、自分でした」


部屋の空気が張る。


「それを奪うのは、まだ早い」


赤月は視線を落とす。


「……リエルは、選ばせる時間ではないと言った」


紫苑はわずかに目を細める。


「そうか」


その一言には、 感情がほとんどない。


だが、否定もない。


「なら、今はそれでいい」


「今は?」


「世界があの子を見る目が変わったとしても、 あの子が世界を選ぶとは限らない」


静かに、はっきりと。


「直は、迷い込む側ではない。 だが―― まだ、こちら側とも決めていない」


赤月は理解する。


紫苑は、もっと前から知っていた。

あの子が境を知ることも。

越えないことも。


いずれ、選ぶ日が来ることも。


沈黙が落ち

紫苑は書類を閉じる。



その視線が、ふと赤月の腹部へ落ちた。


「……体は問題ないのか」


唐突で、脈絡のない問い。


赤月は一瞬、言葉を失う。


「……問題ない」


それだけを返す。


紫苑は頷きもせず、ただ視線を戻した。

それ以上、触れない。




「相談は終わりか」


淡々とした声。


赤月は一礼する。


「……ああ」


扉に手をかけた瞬間、


紫苑が言った。


「赤月」


足が止まる。


「慌てるな」


それだけだった。


部屋を出たあと、 赤月はようやく気づく。


紫苑は、 “既に備えている”。


何に対してかは、 まだ分からない。


だが、確実に。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

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「ブックマークや評価をいただけると、ランキングに載りやすくなり、執筆の大きな励みになります!」


今後ともよろしくお願いいたします

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