表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第17章|成長と選択
79/190

(5)風の気配と、認められた位置

収束後。


空は不自然なほど澄んでいた。


朝日が空を見上げる。


「……さっきまで曇ってましたよね」


確かに、境界の歪みが出る前は重い雲が垂れていた。


今は、晴れている。


風が静かに流れた。


直がわずかに眉を寄せる。


――誰かが、空を整えた。


藤紫も気づいている。


これは自然の戻り方ではない。


意図がある。


遠くで、草木が一斉に揺れる。


境界線付近の植物が、歪みの痕跡を吸い上げるようにざわめく。


翡翠。


名はまだ出ていない。


けれどその力は、痛みを知る者の優しさを帯びている。


削れた地脈を、静かに癒していく。


そして空。


風向きが整えられ、湿度が均される。


真空。


文官のように、後処理を正確に行う気配。


干渉は最小限。


しかし確実。


直の視線が鋭くなる。


「誰だ」


小さく呟く。


藤紫は静かに首を振る。


「敵意はない」


それでも直は警戒を解かない。


藤紫の半歩前に立つ。


無意識だ。


朝日がそれに気づく。


「……また前に出てますよ」


軽く言う。


直は動かない。


遠くの気配が、一瞬こちらを“見る”。


観測する視線。


直は、その見えない視線に対して、はっきりと立ち位置を示す。


ここが、自分の場所だと。


風が一瞬、強まる。


試すように。


直は一歩も引かない。


翡翠の植物が、足元で小さく芽吹く。


歪みの残滓を吸収し、癒す。


その優しさの奥に、深い痛みがあることを、藤紫は感じ取る。


――家族を失った者の、静かな怒り。


世界は、動き始めている。


藤紫は理解する。


これから眷属が集う。


自分の周囲に。


そして直は、その全てを牽制するだろう。


実際、そうなりかけている。


「これ以上の干渉は必要ない」


直の声が、空に向く。


宣言だ。


誰に対しても。


藤紫は息を吐く。


「直」


名前を呼ぶ。


それだけで、直の肩がわずかに緩む。


「あなたは、私の補佐よ」


周囲が静まる。


朝日も息を止める。


藤紫は続ける。


「そして――」


一瞬、迷いがよぎる。


けれど、言う。


「私の隣に立つ者」


空気が変わる。


風の流れが、わずかに止まる。


遠くの気配が、沈黙する。


認めた。


正式に。


直の立ち位置を。


直は驚かない。


ただ、深く息を吸う。


「最初からそのつもり」


低く答える。


牽制ではない。


宣言でもない。


事実だという顔。


藤紫は理解する。


認めざるを得なかった。


彼はもう、子どもではない。


自分を守るだけでなく。


周囲を制し。


見えない存在にも立場を示す。


世界が動き始める中で。


この位置は、必要だ。


風が、穏やかに戻る。


植物が静まる。


真空も翡翠も、深追いしない。


ただ一つ、確かめただけ。


観測者の隣に立つ少年。


その覚悟を。


そして。


直は藤紫の方へわずかに顔を寄せる。


「……下がらないから」


小さく。


藤紫だけに聞こえる声。


藤紫は、ほんの一瞬だけ目を細める。


観測者ではない、姉の顔で。


「ええ、知ってる」


そのやり取りを、朝日は黙って見ていた。


――本当に、勝てない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ