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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第16章|境界の手前
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(3)姉と弟

(視点:藤紫)


背が伸びた直は、隣を歩くとき、わずかに視線が高い。

並ぶと、肩の位置がもう合わないことに気づく。


神殿の石畳は、朝の光を受けて白く光っていた。


「直、これ運んでくれる?」


「うん」


自然な手つきで、直が荷を受け取る。

軽々と、何でもない顔で。


藤紫は少し見上げた。


「背、伸びたね」


「もう十六だよ」


苦笑する横顔が、少しだけ大人びている。


神殿の奥で、風が鳴った。


直がふと立ち止まる。


「直?」


返事の代わりに、穏やかな視線。


藤紫はつま先立ちになる。

届かないと分かっていても、手を伸ばす。


指先は空を掠める。


その瞬間、直がわずかに身を屈めた。


柔らかな髪に、ちゃんと触れる。


「……無理しなくていいよ」


「無理してない」


少しだけ得意げに言うと、直は困ったように笑った。


大きくなった。

もう、守られるだけの子じゃない。


それでも。


「……大きくなったね」


独り言みたいに零す。


直は何も言わない。

ただ、そのままの高さでいてくれる。


撫でるたびに、指の下の感触が違う。


体は変わる。

時間は進む。


けれど。


――この子は、やっぱり私の弟だ。


そう思うことを、

誰にも咎められない世界であってほしいと、ほんの少しだけ願った。



―――――――――――――――――――


(視点:直)


姉がつま先立ちになるのは、分かっていた。


届かないことも。


だから、ほんの少しだけ身を屈める。

それだけで、指が届く。


撫でられるのは、子どもみたいだ。

けれど、やめてほしいと思ったことはない。


直は荷物を持ち直す。

軽い。


歩き出してから、一瞬だけ迷う。


それから、手を伸ばした。


藤紫の頭に触れる。

撫でるというより、確かめるように。


「……?」


見上げる瞳に、直は視線を逸らす。


無邪気にはできない。

でも――


姉が撫でたかったなら。

今度は、自分が撫でてもいい。


胸の奥が、少しだけ温かい。


十六歳になっても。


直は、姉の弟だった。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

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