(3)姉と弟
(視点:藤紫)
背が伸びた直は、隣を歩くとき、わずかに視線が高い。
並ぶと、肩の位置がもう合わないことに気づく。
神殿の石畳は、朝の光を受けて白く光っていた。
「直、これ運んでくれる?」
「うん」
自然な手つきで、直が荷を受け取る。
軽々と、何でもない顔で。
藤紫は少し見上げた。
「背、伸びたね」
「もう十六だよ」
苦笑する横顔が、少しだけ大人びている。
神殿の奥で、風が鳴った。
直がふと立ち止まる。
「直?」
返事の代わりに、穏やかな視線。
藤紫はつま先立ちになる。
届かないと分かっていても、手を伸ばす。
指先は空を掠める。
その瞬間、直がわずかに身を屈めた。
柔らかな髪に、ちゃんと触れる。
「……無理しなくていいよ」
「無理してない」
少しだけ得意げに言うと、直は困ったように笑った。
大きくなった。
もう、守られるだけの子じゃない。
それでも。
「……大きくなったね」
独り言みたいに零す。
直は何も言わない。
ただ、そのままの高さでいてくれる。
撫でるたびに、指の下の感触が違う。
体は変わる。
時間は進む。
けれど。
――この子は、やっぱり私の弟だ。
そう思うことを、
誰にも咎められない世界であってほしいと、ほんの少しだけ願った。
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(視点:直)
姉がつま先立ちになるのは、分かっていた。
届かないことも。
だから、ほんの少しだけ身を屈める。
それだけで、指が届く。
撫でられるのは、子どもみたいだ。
けれど、やめてほしいと思ったことはない。
直は荷物を持ち直す。
軽い。
歩き出してから、一瞬だけ迷う。
それから、手を伸ばした。
藤紫の頭に触れる。
撫でるというより、確かめるように。
「……?」
見上げる瞳に、直は視線を逸らす。
無邪気にはできない。
でも――
姉が撫でたかったなら。
今度は、自分が撫でてもいい。
胸の奥が、少しだけ温かい。
十六歳になっても。
直は、姉の弟だった。
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