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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第15章|世界が揺れる場所
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(3)何も知らない日常/子どもたちの言葉

(視点:藤紫)


朝は、いつも通りに始まった。


直は静かに身支度を整え、

食卓では必要な分だけ口をつける。


特別な変化はない。

少なくとも、藤紫の目には。


「今日は外、行かないの?」


何気なく聞くと、直は少し考えてから首を振った。


「あとで」


それだけ。


双子の姿は見えなかった。

ここ数日、やけに大人しい。


――叱られたのだろうか。


やんちゃな双子は、いつも何かしらやらかしている。

今回も、たぶんその延長だ。


藤紫はそう思い、深く考えるのをやめた。


直は、いつもと変わらない。

落ち着いていて、聞き分けが良くて、

少し距離を取るようなところも、前からだ。


藤紫は、それを「成長」だと思っている。


世界は平和で、

結界は揺れていない。


藤紫は知らない。


この静けさが、

偶然守られた結果だということを。



―――――――――――――――――――


(視点:直)


後日。


中庭の隅、人気のない場所で、

陽向と朝日が直を呼び止めた。


「なあ、直」


朝日が言う。

いつもの軽さはない。


「お前さ」


陽向が続ける。


「……あそこ、分かってたよな」


直は答えない。

否定もしない。


風が一瞬、止まる。


「俺たち、怒られた」


「めちゃくちゃ怒られた」


「でもさ」


二人の視線が、まっすぐ直に向く。


「お前、何も言われなかった...」


責める声じゃない。

でも、軽くもない。


直は、少し考えてから言った。


「行かなかったから」


「それだけ?」


「それだけ」


双子は顔を見合わせる。


「……ずるいな」


朝日が小さく言った。


直は肩をすくめる。


「通る道じゃなかった」


「誰の?」


「俺の」


その言葉で、双子は黙った。


分からない。

でも、何かが違う。


同じ場所に立っていたはずなのに、

見ていたものが違った。


直はそれ以上、何も言わなかった。


―――――――――――――――――――


(視点:陽向/朝日)


先を歩く二人を、陽向は何となく目で追っていた。


藤紫と直は、手を繋いでいる。

それだけなら、別に珍しくもないはずなのに――

なぜか、ずっと気になった。


引っ張っているわけじゃない。

引っ張られているようにも見えない。

歩く速さも、間も、同じだ。


「なあ」


陽向が小さく言う。


「あれ、ずるくね?」


冗談めかした声だった。

深い意味なんて、ないふりをするいつもの調子。


朝日は少し遅れて、同じ方を見る。


「……ああいうの、うちじゃ無理だろ」


淡々とした言い方。

否定でも、文句でもない。


ただの事実みたいに。


藤紫は何も言わない。

直も、何も言わない。


それなのに、手は離れない。


「直さ」


陽向が続ける。


「あれ、平気なんだな」


朝日は一瞬、答えずにいた。


平気そうに見える。

恥ずかしがってもいないし、

誇る様子もない。


ただ、そこにいるだけだ。


「……平気っていうか」


朝日は言葉を探すように、少し間を置いた。


「当たり前、なんじゃね」


陽向は鼻で笑った。


「当たり前って何だよ」


でも、そのまま何も言い返さなかった。


二人はまた歩き出す。

さっき見た光景を、わざわざ引きずることもなく。


ただ、どこかで引っかかった感覚だけを残して。


それが何なのかは、

まだ、言葉にしなくていい。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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「ブックマークや評価をいただけると、ランキングに載りやすくなり、執筆の大きな励みになります!」


今後ともよろしくお願いいたします

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