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(3)気づいている者

龍神殿の高所は、風がよく通る。

見下ろせば、子供たちは小さくて――少し、危なっかしい。


「……ああ、やっぱり」


リエルは、苦笑するように息を吐いた。


直と藤紫が並んで歩いている。

たったそれだけの光景なのに、目が離せない。


歩幅が、合っていない。


ほんの少し。

言われなければ気づかない程度。

でも――気づいてしまった以上、戻れない差。


「早いなあ……」


責める気は、どこにもなかった。

むしろ、困っている。


人の子が、神殿で育つ。

それだけで特別なのに。


それでも直は、ちゃんと“人”として育っている。

考えて、比べて、感じてしまう。


……早すぎるくらいに。


リエルは視線をずらす。

紫苑の立ち位置を見て、少しだけ安心した。


「あの人は、最初から分かってたんだろうな」


拾った時点で。

抱き上げた瞬間で。


それでも、何も奪わなかった。

気づく前提で、育てている。


「止めないよね」


それは確認じゃない。

同意だ。


止めることは出来る。

隠すことも、遅らせることも。


でも――

それをしたら、直じゃなくなる。


リエルは、欄干に額を預けるようにして、空を見た。


「まだ……大丈夫か」


外郭まで行ける。

子供たちを外に出せる。

それは、守る必要すら意識しない平和な日常だった。


だから、今は。


「見てるだけでいい」


遠くで、直がふと足を止めた。

誰を見るでもなく、ただ立ち止まる。


自分の中の何かを、確かめるみたいに。


「……気づいちゃったか」


声は、少しだけ残念そうで、少しだけ愛おしい。


言葉は、まだ早い。

選択も、まだ先。


「時間は、ちゃんとある」


自分に言い聞かせるように、リエルはそう呟いた。


空は穏やかで、境界は静かだ。


だから今日も、龍神殿は開いている。


――何も壊れないように。

――何も奪わないままで。



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