表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第13章|変わっていくものと、変わらない夜
59/188

(4)見守るという選択

(視点:紫苑)


紫苑は、変化に気づいていた。


それは、ある日突然訪れたものではない。

赤ん坊だった直を腕に抱き上げた、その瞬間から――

いずれ訪れると、わかっていた時間だ。


人の子は、速い。

息をするように育ち、昨日と今日のあいだに境目を作る。

龍の子らが長い時間を緩やかに進むのとは、根本から違う。


藤紫も、気づき始めている。

声に出さず、態度にも大きくは出さず、

それでも夜の布団を敷く手が、少しだけ慎重になった。


大人しい娘。

よく笑い、よく世話をし、問いを胸にしまい込む子。


人間の子。

安心の中で育ち、だからこそ、違いに戸惑い始めた子。


紫苑は、そのどちらも知っている。


理解している、というより――

信じている。


根拠のない自信ではない。

血や契約による信頼でもない。


藤紫が、直を抱くその手を見てきた。

直が、藤紫を呼ぶ声の揺らぎを聞いてきた。


人は、想うことで育つ。

想われることで、踏みとどまれる。


だから紫苑は、止めない。


問いを奪わず、

答えを与えず、

変化をなかったことにしない。


見守ることは、手放すことではない。

抱きしめないことでもない。


ただ、前に立たないという選択だ。


神殿の回廊で、子どもたちが駆けていく。

直の歩幅は、ほんのわずかに長くなった。

藤紫は、それに気づきながら、何も言わない。


紫苑は、少しだけ微笑む。


二人とも、ちゃんと生きている。

迷いながら、守りながら、進んでいる。


それでいい。


紫苑は母であり、保護者であり、

そして――人が好きな存在だ。


だからこそ、人の時間を奪わない。

娘の選択も、子の成長も、

すべてを抱いたまま、ここに立つ。


いつか、問いが言葉になる日が来ても。

その時は、その時だ。


今はただ、

変わっていくものと、変わらない想いを、

同じ場所で見つめている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ