(3)変わっていくもの
気がつくと、直は一番後ろを歩くようになっていた。
前を行く子たちの背中は、前と同じだ。
昨日と、たぶん一年前と、もっと前とも、ほとんど変わらない。
走り方も、笑い方も、声の高さも。
昨日と、たぶん一年前と、ほとんど変わらない。
なのに、自分だけが違う。
石段を上るとき、前は二段ずつ跳ねていたのに、今は一段ずつ踏む。
膝がぶつからないように、いつの間にか身体をかばっている。
視線の高さが変わったせいで、柱の彫刻が少し近くなった。
「直、早いよ」
後ろから声がして、立ち止まる。
振り返ると、みんなはいつもの距離にいる。
追いつこうとしているわけでも、遅れているわけでもない。
ただ、そこにいる。
待つ、という感覚が胸の奥に残った。
前は、待たれる側だった気がする。
誰かが手を引いてくれて、転ばないように見てくれていた。
今は、足を止めるのは自分だと、分かってしまう。
神殿の庭で、みんなが走り回る。
直は少し離れた石に腰を下ろして、その様子を見る。
笑い声は変わらない。
はしゃぎ方も、転びそうになる仕草も。
――同じだ。
そう思うと、安心する。
でも、胸の奥が、少しだけひっかかる。
自分の手を見る。
指が長くなった。
掌の皮が、少しだけ硬い。
誰も気づかない。
気づく必要も、たぶん、ない。
ここは安全で、あたたかくて、満ちている。
食べるものも、眠る場所も、声をかけてくれる大人もいる。
幸せだ、と直は思う。
それでも、夜になると、ふと考えてしまう。
このまま、自分だけが大きくなっていくのか。
この場所は、変わらないままなのか。
問いは、誰にも投げない。
答えを知るのが、少し怖いから。
直は立ち上がって、また歩き出す。
歩幅を、みんなに合わせて。
並んで歩ける今を、
まだ、手放したくなかった。




