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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第13章|変わっていくものと、変わらない夜
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(2)眷属たちの午後

同じ時間に、同じ空の下で。

それぞれの場所に、それぞれの静かな午後があった。


―――――――――――――――――――


(視点:橙生)


橙生は、石畳の端に腰を下ろしていた。

盾を立てかけることもなく、ただ子供たちを眺めている。


陽向と朝陽が、同じ動きで走り出し、同じところで止まる。

一卵性の双子は、示し合わせたわけでもないのに、よく揃う。


「待てって言っただろ」


声は低く、叱るほど強くはない。

それでも二人は振り返り、同時に笑った。


橙生は小さく息を吐く。

守るべき存在を前にしているはずなのに、

警戒する理由が、どこにも見当たらなかった。


危険はない。

不穏もない。

世界は、ちゃんと静かだ。


子供たちの足音と笑い声が、

盾よりも確かな重みで胸に残る。


これでいい。

今は、それだけでいい。


―――――――――――――――――――


(視点:紫苑)


紫苑は回廊の影に立ち、帳簿を閉じたところだった。

仕事は終わっている。

急ぐ理由も、留まる理由もない。


中庭から、子供の声が聞こえる。

高くて、遠慮がなくて、少し不揃いな声。


藤紫が、誰かと並んで座っているのが見えた。

話しているわけでもない。

ただ、同じ方向を向いている。


それだけで、胸の奥が緩む。


かつて、紫苑は多くを見すぎた。

失われる瞬間も、選ばれる残酷さも。


だからこそ、今ここにある静けさが、

どれほど特別なのかを知っている。


世界は、まだ傾いていない。

観測は、始まっていない。


この時間が続くなら、それでいい。

紫苑は、そう思ってしまった自分を、咎めなかった。


―――――――――――――――――――


(視点:青藍)


青藍は、影の中にいた。


柱の裏、回廊の継ぎ目、

人の目には映らない位置を、無意識に選んでいる。


だが、警戒しているわけではない。


ユリウスとナイトが、石段を下りてくる。

足並みは揃っていない。

それでも、互いを待つ距離は同じだ。


転びそうになると、影が伸びる。

抱き上げるほどではない。

ただ、支えるだけ。


子供たちは気づかない。

それでいい。


青藍にとって、この距離は自然だった。

近すぎず、遠すぎず、役割を意識する必要もない。


影は、今日も静かだ。

揺らぎはない。


この日常が続くことを、

願うという発想すら浮かばなかった。


続くのが当たり前だと、

どこかで信じていたから。


―――――――――――――――――――


同じ時間、同じ空。

それぞれの場所で、それぞれの穏やかさがあった。


まだ、誰も気づいていない。

この静けさが、

奇跡のように保たれていることを。

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