(2)眷属たちの午後
同じ時間に、同じ空の下で。
それぞれの場所に、それぞれの静かな午後があった。
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(視点:橙生)
橙生は、石畳の端に腰を下ろしていた。
盾を立てかけることもなく、ただ子供たちを眺めている。
陽向と朝陽が、同じ動きで走り出し、同じところで止まる。
一卵性の双子は、示し合わせたわけでもないのに、よく揃う。
「待てって言っただろ」
声は低く、叱るほど強くはない。
それでも二人は振り返り、同時に笑った。
橙生は小さく息を吐く。
守るべき存在を前にしているはずなのに、
警戒する理由が、どこにも見当たらなかった。
危険はない。
不穏もない。
世界は、ちゃんと静かだ。
子供たちの足音と笑い声が、
盾よりも確かな重みで胸に残る。
これでいい。
今は、それだけでいい。
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(視点:紫苑)
紫苑は回廊の影に立ち、帳簿を閉じたところだった。
仕事は終わっている。
急ぐ理由も、留まる理由もない。
中庭から、子供の声が聞こえる。
高くて、遠慮がなくて、少し不揃いな声。
藤紫が、誰かと並んで座っているのが見えた。
話しているわけでもない。
ただ、同じ方向を向いている。
それだけで、胸の奥が緩む。
かつて、紫苑は多くを見すぎた。
失われる瞬間も、選ばれる残酷さも。
だからこそ、今ここにある静けさが、
どれほど特別なのかを知っている。
世界は、まだ傾いていない。
観測は、始まっていない。
この時間が続くなら、それでいい。
紫苑は、そう思ってしまった自分を、咎めなかった。
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(視点:青藍)
青藍は、影の中にいた。
柱の裏、回廊の継ぎ目、
人の目には映らない位置を、無意識に選んでいる。
だが、警戒しているわけではない。
ユリウスとナイトが、石段を下りてくる。
足並みは揃っていない。
それでも、互いを待つ距離は同じだ。
転びそうになると、影が伸びる。
抱き上げるほどではない。
ただ、支えるだけ。
子供たちは気づかない。
それでいい。
青藍にとって、この距離は自然だった。
近すぎず、遠すぎず、役割を意識する必要もない。
影は、今日も静かだ。
揺らぎはない。
この日常が続くことを、
願うという発想すら浮かばなかった。
続くのが当たり前だと、
どこかで信じていたから。
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同じ時間、同じ空。
それぞれの場所で、それぞれの穏やかさがあった。
まだ、誰も気づいていない。
この静けさが、
奇跡のように保たれていることを。




