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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第13章|変わっていくものと、変わらない夜
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(1)龍神殿の光

朝の光は、いつも龍神殿の白い床をやわらかく照らしていた。

高い天井から落ちてくる光は、色がなくて、でもあたたかい。


 目を開けると、いつも天井が高い。

 高すぎて、端が見えない。


 白い石の床は冷たくて、裸足の裏がひんやりする。歩くたび、こつん、こつん、と音がして、その音が遠くまで転がっていく。ここでは、小さな音でもすぐに消えない。


 神殿は、光で満ちている。

 太陽の光とは少し違う。まぶしいのに、目が痛くならない。水の中みたいに、ゆっくり揺れている。


 柱は太くて、上のほうで何かと繋がっているけれど、見上げても全部は分からない。柱の表面には線が刻まれていて、触ると指先がざらりとする。その感触が、なぜか落ち着く。


 奥のほうから、かすかな音が聞こえる。

 鈴みたいでもあり、風みたいでもある。

 音なのか、ただの気配なのか、よく分からない。

 神殿の内側では、静けさが当たり前だった。

 他の子たちは静かだ。

 声を出してはいけないと教わったわけじゃない。でも、ここでは自然と声が小さくなる。笑う子も、泣く子もいない。


 足元に、光が落ちている。

 床の白に、淡い青が混じって、影ができない。不思議だと思って、しゃがみこんで見つめる。


 近くにある水盤の中も、同じ色をしている。水は動いていないのに、光だけが揺れている。指を入れると、冷たい。でも、すぐに慣れる。


 遠くで、誰かが歩いている気配がする。

 大人の足音だ。重くて、ゆっくり。


 振り返っても、姿は見えない。

 神殿は広すぎて、全部を一度には見せてくれない。


 それでも、怖くはない。

 ここは、ずっと前からこうだった。


 光は消えず、音は続いている。

 今日も、龍神殿は静かに息をしている。

 その扉を抜けると、光の質が変わる。


白い石畳の中央に、丸い広場がある。

 その周りを囲むように、草と低い木々が植えられていて、葉の隙間から光がこぼれる。風が吹くと、木々が一斉に揺れて、さわさわと音を立てた。

 子供たちは走っている。

 理由はない。ただ、走りたいから走る。

 石畳を踏む足音が重なって、笑い声が弾む。

 転びそうになって、誰かが手を伸ばす。

 ぶつかって、よろけて、それでもまた走り出す。

 「待って!」

 「こっちだよ!」

 声は高くて、よく響く。

 神殿の壁に跳ね返って、少し遅れて戻ってくる。その遅れが、なんだか面白くて、また笑う。


柱はどれも大きくて、背伸びしても半分も届かない。


床に座ると、冷たさはすぐに気にならなくなった。


「今日はね、雲が低いんだって」


誰かがそう言って、外を指さす。

神殿の外には、遠くまで続く空と、ゆっくり流れる雲。

風は強くない。音も少ない。


子供たちは裸足で走りまわり、

石畳の上にそのまま寝転がる。


笑い声が、神殿の中にひとつ、ふたつ、増えていく。


石段の上では、年上の子が小さな子の手を引いていた。

転ばないように、でも引っ張りすぎないように。

それが当たり前みたいに。


「見て、ここ」


壁の彫刻を指さすと、みんなが集まる。

龍の形。羽のような線。長い尾。

何度も見ているのに、飽きない。


「この龍、強そうだね」

「こっちは優しそう」


そんなことを言い合って、正解がなくても気にしない。


奥の中庭には小川の水が流れていて、透明で、静かで、

石の縁に手を伸ばすと、少しだけ冷たい。


水面に映る顔が揺れる。

揺れても、それが面白くて、また覗き込む。


空は高く、神殿は広い。

でも、ひとりになる場所はない。


どこにいても、誰かの気配がある。

足音、息遣い、衣擦れの音。


それだけで、十分だった。


昼になると、鐘が鳴る。

大きな音じゃない。

でも、ちゃんと聞こえる。


子供たちは自然と集まって、座って、

食べて、話して、また笑う。


今日が何日か、明日がどうなるか、

そんなことは誰も考えない。


ここにあるのは、

今の光と、今の声と、今のぬくもりだけだった。

それが、この場所のすべてだった。

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