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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第12章|ふたりの距離
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(4)変わらない距離 2

距離は、縮まらなかった。


物理的には、変わらない。

指を伸ばせば触れる場所に、常に互いはいる。

呼吸の温度も、体温も、同じ空気の中にある。


それでも――

交わらない。


それは拒絶ではない。

避けているわけでも、恐れているわけでもない。


ただ、越えない。


ルシアンは、静かにその距離を保っていた。


猫は相変わらず、彼の上にいるのか、

それとも彼が猫の下にいるのか、

どちらともつかない位置で、重さを預けていた。


逃げる気はない。

離れる気もない。


ただ、動かない。


「……」


声にしようとして、やめる。

名前を呼ぶ理由が、見つからなかったからだ。


名前を呼べば、

距離が定義されてしまう。


近い、遠い。

こちら側、向こう側。


今はまだ、

そのどちらにもしたくなかった。


猫は目を閉じている。

眠っているのか、起きているのか、分からない。


猫は、わずかに身体を伸ばした。


伸びをする、というより、

重さのかかる方向を探るような動きだった。


背中が押される。 胸の下に、ゆっくりと圧がかかる。


このままでは、少し潰される。


けれど、逃げない。


爪を立てることも、 鳴いて知らせることも、しない。


フェリスは、首をわずかに傾け、 自分の重さを、より深く預け直す。


――大丈夫だ。


潰されるほどではない。 押し返すほどでもない。


この圧は、 拒絶ではなく、 無意識の重なりだと、知っている。


ルシアンの呼吸が、一定のリズムを刻む。 眠りに落ちかけている証拠。


フェリスは、その鼓動に合わせるように、 身体をさらに伸ばした。


近づくためではない。 離れないための、調整。


名を呼ばれなくても、 触れられなくても、


この距離は、まだ崩れていない。


だから、動かない。


潰されそうで、 それでも、ここが一番安全だと知っている。


フェリスは、目を閉じたまま、 その重さの中に、静かに身を沈めた。



――分からない、という状態が、

この距離を保っている。


気づいていないわけじゃない。


重さがあることも、

その重さが、ただの体重ではないことも。


それでも、確かめない。


確かめてしまえば、

何かを選ばなければならなくなる。


星が落ちるように、

天秤が役目を失うように、

一度傾いたものは、元には戻らない。


だから、今は。


この距離のままでいい。


遠くで、何かが軋む気配がした。

世界のどこかで、均衡が崩れている音。


だが、ここには届かない。


届かせない。


ルシアンは、視線を落としたまま、

ただ呼吸を続けた。


近くて、

触れていて、

それでも交わらない距離。


それは弱さではなく、

選択だった。


変えないという、選択。


この距離がある限り、

失われないものが、確かにある。


だから――

今日も、動かない。


猫の重さを受け止めたまま、

ルシアンは、何も言わずにそこにいた

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