表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第12章|ふたりの距離
53/191

星の閑話VIII|交わらない距離

(ルシアン視点)


夜は、静かだった。


窓を開けているのに、風はほとんど入ってこない。

街の音も遠く、世界は必要な分だけ息をしている。


ルシアンはベッドに横になり、胸の上の重みを確かめる。

黒い毛の塊が、当たり前のようにそこにいる。


フェリスは、今日も近い。

近すぎるくらいだ。


顔を動かせば、ひげが頬に触れる。

呼吸が合ってしまう距離。

離れようと思えば離れられるのに、

そうしないことを、もう選んでいる。


「……重い?」


問いかけても、返事はない。

代わりに、喉が小さく鳴った。


それで十分だった。


最近、星を見上げる回数が増えた。

占いのためじゃない。

理由もない。


ただ、見上げたくなる夜がある。


けれど今日は、空を見ない。

窓の外より、胸の上の温度のほうが確かだった。


フェリスは、出ていくことがある。

音もなく、気配も残さず。

気づけば重みが消えていて、

戻る頃には、何事もなかったように元の場所にいる。


不思議だと思わないわけじゃない。

でも、考えすぎない。


猫はそういうものだ、と

自分に言い聞かせる必要すらない。


近いのに、踏み込めない場所がある。

それを“距離”だとは思っていなかった。


名前も、首輪も、約束もない。

それでも、この重みはここにある。


失くす気がしない。

離れる気もしない。


「……大丈夫だよな」


誰に向けた言葉かも分からないまま、呟く。


フェリスは、答えない。

ただ、眠りの中で少しだけ身じろぎをした。


それだけで、安心してしまう自分がいる。


遠くで、何かが見ている気がした。

けれど、振り向かない。


近くにあるものを、

今は離したくなかった。


この距離は、交わらない。

触れているのに、届かない。


けれど――

壊れてはいない。


それだけで、今夜は十分だった。


ルシアンは目を閉じる。

胸の上の重みを、世界の中心にして。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ