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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第12章|ふたりの距離
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(3)交わらない距離

同じ空を見ているはずなのに、

いつからか、彼の輪郭はわずかに滲むようになった。


距離がある、という感覚は

必ずしも足の歩幅や、手の届く範囲で測れるものではない。

並んで立っていても、心が触れないことはあるし、

離れていても、呼吸の位置が重なる瞬間はある。


カストルは、いつも前にいた。

光の進む先を選び、迷いなく歩く。

ポルックスはその背を見つめ、

追いかけるというより、待つことを選んだ。


それは臆病さではなかった。

前に出ないことで、見えるものがあったからだ。


兄の背中は、遠ざかるほどに強く、

近づくほどに脆さを含んでいるように思えた。

触れれば壊れてしまいそうで、

だから、触れない距離を保った。


言葉にすれば簡単だ。

「信じている」「分かっている」と。

けれど、理解と共有は同じではない。

同じ痛みを見ていても、

それをどこにしまうかは、人それぞれ違う。


近くにいるからこそ、見えなくなるものがある。

当たり前すぎて、問い直さなかった感情。

離れて初めて、

その存在が自分の一部だったと気づくこともある。


今、二人の間にあるのは

触れられないほどの隔たりではない。

ただ、交わらない線が一本、静かに引かれているだけだ。


越えようと思えば、越えられる。

呼べば、振り返る距離でもある。

それでも、あえて踏み込まない。


それは拒絶ではなく、尊重だった。


同じ星の名を持ちながら、

同じ場所に立たないという選択。

進む兄と、待つ弟。

そのどちらが欠けても、

二人は二人ではいられなかった。


距離は、断絶ではない。

それは、相手をひとりの存在として見るための余白だった。


そしてポルックスは知っている。

この距離があるからこそ、

いつか再び並ぶとき、

初めて交わせる言葉があることを。

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