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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第1章|星が重さを持った夜
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(3) 双子が離れる夜

主視点:カストル


弟の光が、消えた


消失ではない

死でも、循環でもない

――欠落だ。


双子座は、二つで一つの星だ。

互いの位置を補い、互いの意味を支え合って、初めて“座”として成立する。

だから分かる


ポルックスは、還っていない。

だが、ここにもいない。

星図の上で、彼の位置だけが白く抜け落ちている。


「……そうか」

カストルは初めて

星としての声を落とした。


天界は静まり返っている。

警告も、補正も、

もう発せられない。


双子座は、完成しなくなった。

その原因が、例外による救出であることを、カストルは理解している。


弟は、助かった。

だがそれは、

星としては“終わった”ことを意味する。


――それでいい。


そう思った瞬間、

自分が、星ではなくなり始めていることに気づく。

均衡を保つ役目は、もう存在しない。

支える相手が、ここにはいない。


カストルは、初めて“動く”ことを選んだ。





煉獄は、下にある。

それは知識だ。


だが今、それは感覚になっている

弟の光が、そこから滲んでいる

距離ではない。方向でもない。関係性だ。


カストルは、自分の位置を外す

星座として縫い留めていた力を、自らほどく。

天界の法則が、一瞬、抵抗する。


「――戻れ」


それは命令ではなく、自動処理の声だ。

だが、戻る理由は、もうない。

「弟がいる」

それだけで、十分だった。



落下は、衝撃ではなかった。

剥がされる。

光が、意味が、役目が。

それらが一枚ずつ、静かに外れていく。

黒い霧が、周囲を満たす。


煉獄だ。


ここでは、星も、神も、等しく分解される。

カストルは、恐怖を感じない

恐怖は守るべき位置がある者の感情だ

彼には追うものしか残っていない。

「ポルックス」

名を呼ぶ

声ではない

概念でもない

ただ、兄としての意志

すると、遠くで微かな応答が揺れた。


生きている

否、存在している

それで十分だ



煉獄は、地上へ続いている。

本来、星が辿る道ではない

だが今のカストルは、星ではない

双子の兄だ。


剥がされ、削られ、それでも残ったものだけで、歩く。

一歩ずつ。

煉獄は、優しくはない。

だが拒まない。

拒めない。

自ら選んで堕ちた存在を、排除する理由がないからだ。



カストルは、振り返らない。

天界を見ない。

星図を思い出さない。

見れば、戻れなくなる。

彼は知っている。

弟は、もう星ではない場所にいる。


ならば、

兄もまた星である必要はない。

「先に行け」

それは、追い越すための言葉ではない。

並ぶための約束だ。

煉獄の闇の奥で、地上の気配がかすかに揺れている。

星が重さを持った夜、双子は完全に分かたれた。

だがそれは終わりではない。

――兄は、歩き始めた。

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