(5) まだ名前はない
(ルシアン視点)
ベッドの上に、微睡みの中にあったはずの重みが、感じられなくなった。
フェリスがいない。
すぐには慌てなかった。
猫だ。
自由に出入りするのは当然だ。
散歩にでも行ったのだろう。
開けられたままの窓から、月の光が少しだけ差し込んでいる。
覗くことも、呼ぶことも、まだしない。
猫は器用だ。こちらが心配する前に、きっと戻ってくる。
ふと、棚の上に置いた布製のリボンが目に入った。
店頭で手に取ったのは、どこにでもある、ごく普通のものだった。
「……これでいいか」
理由は、ただ一つ。
首輪は、似合わないと思っただけだ。
無意識の慎重さ。
名を与える前の、軽い遠慮。
ほんの一瞬、フェリスの不在を意識する。
リボンを握りしめ、どう結ぶかを考える。
名前は、まだない。
呼ぶためには、名前を付けなくちゃいけない。
猫は戻ってくるだろう。
その重さも、また、ここに戻ってくる。
そして、この距離が、いまはちょうどいい。
まだ名前はない。
まだ結ばれていない。
けれど、戻ってくる。
なぜか、そう思えた。
ルシアンはリボンを手に、静かに笑う。
ベッドに戻り、
フェリスが帰ってくるのを、うとうとと待つ。
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