(3)黒い影に拾われる星
(視点:ポルックス)
落ちている。
それは比喩ではなく、状態だった。
上も下も失われ、位置が意味を持たない。
星層にいた頃の「座標」は、もうどこにも接続していない。
——還ってはいない。
だが、ここにもいない。
それだけは分かる。
光はまだ残っている。
だがそれは、双子座の片割れとしての光ではなかった。
意味を失い、役目を剥がされ、
ただ存在しているだけの余光。
沈む、という感覚がある。
星は本来、沈まない。
それでも今、自分は確かに——
“下”へと引かれていた。
抗う理由はない。
呼び戻す声もない。
兄の気配は、遠すぎる。
そのときだ。
闇の中で、
別の温度が近づいてくる。
冷たくない。
裁定でも、補正でもない。
理解を求めてこない。
ただ、黒い影。
毛並みの擦れる気配。
低く、安定した鼓動。
それは星層のどの記録にも存在しない感覚だった。
触れられた、と思った瞬間——
光が、包まれた。
咥えられる。
意味が分からない。
敵意も、救済も感じない。
ただ、運ばれている。
「……?」
問いは形にならないまま、ほどけた。
抵抗する力は、もう残っていない。
それでも不思議と、
恐怖はなかった。
この黒い影は、
星であった自分を見ていない。
ただ、ここにある何かとして扱っている。
——それで、いい。
光は、静かに委ねられた。
――――――――――――――――――
(視点:フェリス)
暗いところに、
落ちているものがあった。
きらきらしている。
でも、空のにおいじゃない。
放っておく、という選択肢はなかった。
理由はない。
考えていない。
ただ、そこにいた。
近づく。
動かない。
逃げない。
小さい。
軽い。
でも、冷たくない。
咥える。
少しだけ、光が震えた。
でも嫌がっていない。
たぶん。
歩く。
帰る方向は、ちゃんと分かっている。
途中で、風が鳴った。
星が瞬いた。
それはもう、関係ない。
今、これは
自分が運んでいる。
意味は分からない。
名前も、役目も、知らない。
それでも——
連れていく。
温かい場所へ。
人のいる場所へ。
フェリスは、
それ以上のことを考えなかった。
ただ、
黒いモフモフに拾われた光は、
もう落ちてはいなかった。




