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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第11章|同じ夜/まだ名前はない
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(3)黒い影に拾われる星

(視点:ポルックス)


落ちている。


それは比喩ではなく、状態だった。

上も下も失われ、位置が意味を持たない。

星層にいた頃の「座標」は、もうどこにも接続していない。


——還ってはいない。

だが、ここにもいない。


それだけは分かる。


光はまだ残っている。

だがそれは、双子座の片割れとしての光ではなかった。

意味を失い、役目を剥がされ、

ただ存在しているだけの余光。


沈む、という感覚がある。

星は本来、沈まない。

それでも今、自分は確かに——

“下”へと引かれていた。


抗う理由はない。

呼び戻す声もない。

兄の気配は、遠すぎる。


そのときだ。


闇の中で、

別の温度が近づいてくる。


冷たくない。

裁定でも、補正でもない。

理解を求めてこない。


ただ、黒い影。


毛並みの擦れる気配。

低く、安定した鼓動。

それは星層のどの記録にも存在しない感覚だった。


触れられた、と思った瞬間——

光が、包まれた。


咥えられる。


意味が分からない。

敵意も、救済も感じない。

ただ、運ばれている。


「……?」


問いは形にならないまま、ほどけた。

抵抗する力は、もう残っていない。


それでも不思議と、

恐怖はなかった。


この黒い影は、

星であった自分を見ていない。


ただ、ここにある何かとして扱っている。


——それで、いい。


光は、静かに委ねられた。



――――――――――――――――――


(視点:フェリス)


暗いところに、

落ちているものがあった。


きらきらしている。

でも、空のにおいじゃない。


放っておく、という選択肢はなかった。

理由はない。

考えていない。


ただ、そこにいた。


近づく。

動かない。

逃げない。


小さい。

軽い。

でも、冷たくない。


咥える。


少しだけ、光が震えた。

でも嫌がっていない。

たぶん。


歩く。

帰る方向は、ちゃんと分かっている。


途中で、風が鳴った。

星が瞬いた。

それはもう、関係ない。


今、これは

自分が運んでいる。


意味は分からない。

名前も、役目も、知らない。


それでも——

連れていく。


温かい場所へ。

人のいる場所へ。


フェリスは、

それ以上のことを考えなかった。


ただ、

黒いモフモフに拾われた光は、

もう落ちてはいなかった。

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