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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第10章|まだ何も壊れていない世界
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(2)父が見ている距離/引越し前夜

由良は、自分でも驚くほど足音を殺して歩いていた。


廊下の先、窓辺に座る少年の背中を見つける。

星明かりを受けて、淡く縁取られた輪郭。

その姿が、どうしようもなく――自分に似ていた。


「……やっぱり、か」


苦笑が漏れる。


顔立ちも、骨格も。

それから、ふとした時に見せる無表情さも。

鏡を見るようで落ち着かない。


だが性格は、まるで違う。

そこだけは、はっきりと分かる。


――母親似だ。


ルシアンは振り返らない。

気配に気づいていないわけじゃない。

分かっていて、何も言わない。


それもまた、母に似ていた。


「星、好きだな」


声をかけると、少年はゆっくりと振り返る。

オッドアイが夜空を映し、由良を捉えた。


「うん。今日は、静かだから」


理由になっているようで、なっていない答え。

だが、それでいいのだと、由良は思った。


リエナは、こういう息子を無条件に愛した。

見た目が自分に似ていることもあってか、

溺愛と言っていいほどだった。


――正直、少し羨ましい。


由良は、愛し方を知っているつもりだった。

守り方も、戦い方も。

だが「距離の取り方」だけは、いまだに分からない。


「もう、子供じゃないな」


ぽつりと呟く。


それは確認でも、決意でもなく、

ただの独り言に近かった。


ルシアンは少し考えてから、首を傾げた。


「でも、急に大人にもなれないよ」


その言葉に、由良は息を詰める。


――分かっている。

分かっているから、難しい。


守りたいと思う一方で、

いつまでも守れるわけじゃないことも知っている。


末っ子だから、要領がいい。

甘え方も、距離の取り方も、自然に身についている。

それに気づいていないふりをしているのは、

たぶん、父である自分の方だ。


「……無理に背負う必要はない」


そう言った声が、少しだけ低くなる。


「星が好きでいい。迷ってもいい。

 選ぶのは、いつでも自分だ」


教えなのか、願いなのか、

由良自身にも分からなかった。


ルシアンは、少し困ったように笑う。


「父さんって、心配性だよね」


「……否定はしない」


そのやり取りに、妙な安心が生まれる。


――今は、まだ。


由良は、少年の隣に立ち、同じ空を見上げた。

星は変わらず、静かに巡っている。


この子は、何も知らない。

知らないまま、愛されて育ってきた。


それがどれほど尊いことかを、

由良だけが知っている。


だからこそ、

距離を誤らないようにしなければならない。


近づきすぎても、

突き放してもいけない。


父として、

――それだけは、間違えないと決めていた。


夜空の向こうで、

まだ名も知らぬ運命が動き始めていることを、

二人は知らない。


今はただ、

星が綺麗だと思える時間が、確かにここにあった。




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