(1)星に愛される少年
夜空を見上げるのは、昔からの癖だった。
特別な理由があるわけじゃない。
ただ、気づくと視線が上に向いている。
星が好きだと自覚したのも、ずいぶん後のことだ。
ルシアンにとって星は、
願いを託す対象でも、答えをくれる存在でもなかった。
そこにあって、変わらずに巡り続けているもの。
それだけで、なぜか安心できた。
「……今日も、綺麗だな」
誰に聞かせるでもない呟きは、
夜の空気に溶けて消える。
幼い頃から、星を見ていると落ち着いた。
怖いと思ったことは一度もない。
むしろ――見られている、という感覚すら心地よかった。
それが普通じゃないことだと、
ルシアンは知らない。
彼は今どきの少年だった。
未来に漠然とした夢を持ち、
世界はきっと面白いものだと、疑いなく信じている。
控えめで、前に出るのは得意じゃない。
でも流されるだけでもない。
誰かの話に耳を傾けながら、
自分の中で静かに答えを選ぶ。
それが、彼のやり方だった。
その夜、星の配置が、ほんのわずかに歪んだ。
もちろん、誰も気づかない。
気づけるはずがない。
ルシアンだけが、胸の奥に小さな違和感を覚えた。
心臓が早まるわけでも、
不安に駆られるわけでもない。
ただ、
「何かが、少しずれた」
そんな感覚。
彼は首を傾げ、すぐに気のせいだと結論づけた。
日常は何も変わらない。
家に帰れば、家族がいて、明日が来る。
星は変わらず輝いている。
――この時点で、誰も知らない。
この少年が、
測ることのできない存在であることを。
排除対象ですら内側に含まれる世界で、
彼だけが、最初から外側にいたことを。
それは選択でも、意志でもない。
ただ、そう在った。
星に愛されながら、
どの星にも属さないまま。
ルシアンはまだ、
何ひとつ知らない。
そしてそれこそが、
彼が“普通”でいられる理由だった。




