(8)呼ばれない時間
(ルミナス視点)
今日もルミナスは、散らばった龍鱗を回収していく。
一枚ずつ。
数を数えるためではない。
数えてしまえば、何かが壊れると知っているからだ。
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煉獄は、相変わらず赤かった。
炎はある。熱もある。
だが、音がない。
ネビュラは少し離れた位置で、同じ作業をしている。
声はかからない。
指示も、確認もない。
互いに、必要なことは分かっている。
――呼ばれない。
その事実が、作業の合間に、静かに沁みてきた。
煉獄では、誰も名前を呼ばない。
役割で呼ぶ必要もない。
立場を確かめ合う必要もない。
それでも、かつては違った。
「ルミナス」
その名前は、いつも少しだけ柔らかく呼ばれていた。
確認でも、命令でもない。
ただ、そこにいることを前提にした呼び方。
今はない。
龍鱗を一枚、拾い上げる。
指先に残る微かな温度。
それは、まだ世界に馴染みきっていない証だった。
回収すれば、均衡は動く。
回収が進めば、
世界は「あるべき姿」に戻ろうとして、
かえって歪みを深める。
分かっている。
理解している。
それでも――
その選択を、誰にも呼ばれないまま続けることが、
こんなにも重いとは思わなかった。
ネビュラが、こちらを一度だけ見る。
何か言いかけて、やめたようだった。
結局、何も言わない。
それでいい。
今は、それでいい。
名前を呼ばれない時間は、
自分が何者であるかを、外側から与えられない時間だ。
管理者でもなく、
神でもなく、
誰かの「大丈夫」を前提にされる存在でもない。
ただ、立っている。
歩いている。
拾い続けている。
リエルが残した世界は、
まだ、かろうじて保たれている。
だが、
その中心にあった「呼びかけ」だけが、
完全に、消えていた。
ルミナスは立ち止まり、
何もない空間に、一瞬だけ視線を落とす。
呼ばれることはない。
答える必要も、もうない。
それでも、
この名前を、世界から消さないために。
彼は再び歩き出し、
次の龍鱗へと手を伸ばした。
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