(7) 三歩の距離
(ルミナス視点)
三歩。
それが、リエルとの距離だった。
遠すぎず、近すぎず。
声は届く。
視線も合う。
だが、彼女からこちらへ、手が伸びることはなかった。
最初は、性格だと思っていた。
次に、立場だと思った。
最後には――
理由を考えること自体を、やめていた。
必要な距離だと、思い込んだからだ。
けれど今なら、分かる。
あれは、拒絶ではなかった。
ためらいでも、遠慮でもない。
リエルは知っていた。
自分が、世界の一部へと還る存在だということを。
だからこそ、
「触れる側」にはならなかった。
三歩の距離。
それは、
こちらが手を伸ばせば、届く距離だった。
――手を伸ばしていたのは、いつも自分だった。
気づかぬまま、確かめるように。
失う可能性を考えぬまま、
そこに在ることを前提として。
今、その距離はない。
どれだけ手を伸ばしても、
もう、彼女には触れられない。
ルミナスは、視線を落とす。
そこにいたのは、
小さな身体。
不安を隠しきれない瞳。
ユリウス。
ナイト。
セレスティア。
リエルが残した、子供たち。
どう声をかければいいのか、分からなかった。
何が正解かも、判断できない。
それでも――
身体は、迷わなかった。
かつて、
彼女に向けて伸ばしていた手。
今、
その手は、我が子に触れている。
頭を撫でる。
そっと。
確かめるように。
拒まれなかった。
逃げられなかった。
その瞬間、理解する。
これは代替ではない。
埋め合わせでもない。
――継がれているのだ。
リエルが守ろうとした距離。
触れなかった理由。
与え続けた優しさ。
それらすべてが、
今、自分の手の中にある。
三歩の距離は、もう存在しない。
それでも、
伸ばした手は、確かに届いている。




