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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第62章|『可能性』
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(4)再会

「……覚えていたか」


そう言われ。

理永は、少しだけ首を傾げた。


「ええ。だいぶ前だけれど」


何十年も前のこと。


けれど、あの時のことは覚えている。


岩が崩れて。


危うく岩の下敷きになり川へ落ちそうになったところを、この人に助けてもらった。


「この前は、助けてくれてありがとう」


理永は、素直に頭を下げた。


「……お礼を言うのが、随分と遅くなってしまったわ」


「いや」


由良は静かに首を振った。


「こうして無事なら、それでいい」


その言葉に、理永は小さく笑った。


それから。

ふと気になった。


「そういえば……」


理永は周囲を見回す。


「あなたは、ここで何をしているの?」


由良の瞳が、わずかに揺れた。


ほんの一瞬。

何かを考えるような間があった。


「…………」


理永は、その答えを待った。


由良は少しだけ視線を逸らす。


そして。


「……ミケを探しに来た」


「ミケ?」


聞き慣れない言葉に、理永は首を傾げた。


すると。

木々の向こうから、にゃあ、と鳴き声が聞こえた。


「あ、ネコ」


理永が振り向く。


見覚えのある猫が、こちらへ歩いてくる。


「この子?」


「ああ」


由良が呼ぶ。


「ミケ」


猫は、当然のように由良の足元へ寄っていった。


理永は、その様子をじっと見つめる。


「……ミケって、この子のこと?」


「そうだ」


「名前なのね」


「ああ」


理永は少し考えた。


これまで。

妖精にも。

精霊にも。


名前をつけるという発想をしたことはなかった。


そもそも。

名前をつけて呼ぶ、ということ自体。

理永にとっては、少し不思議なことだった。


「……動物にも、名前をつけるのね」


「人によるだろう」


「そうなの?」


「大切にしているなら、つけることもある」


その言葉に。


理永はミケを見る。


ミケは、何事もなかったように毛づくろいをしている。


「……そういうものなのね」


理永は、少しだけ笑った。


それから。

由良は、理永が持っている籠へ視線を落とした。


中には、空になった魔石と新しく拾ったものがいくつか入っている。


「また、あの洞窟へ?」


「ええ」


「一人で?」


「そうだけど」


由良は、わずかに眉を寄せた。


「ここは危ない」


「知っているわ」


「以前も危ない目に遭っただろう」


「……それは、そうだけど」


理永は困ったように笑った。


「でも、気になることがあったから」


由良はしばらく黙っていた。


そして。


「なら」


静かな声が落ちる。


「護衛をつければいい」


「護衛?」


「ここへ来る時くらいなら、俺が付き合える」


理永は目を瞬いた。


「……あなたが?」


「ああ」


「どうして?」


その問いに。

由良は、ほんの一瞬だけ言葉を止めた。

本当の理由を口にするわけにはいかない。

だから。


「……ミケも、この辺りをよく歩く」


そう答えた。


理永はミケを見る。


ミケは、何も知らない顔で尻尾を揺らしている。


「そうなの?」


理永はミケに声をかけて納得したように頷いた。


「それなら、お願いしようかしら」


由良は、静かに頷いた。


「分かった」


その返事は。

思っていたよりも、ずっと早かった。


理永は気づかない。


由良にとっては。

長い時間をかけて、ようやく手にした――


小さな一歩だった。




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