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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第61章|『願い』
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(1)見つけた

森の奥。

木々の隙間から、ひとつの家が見えていた。


小さな家。

その周囲には、いくつもの花が咲いている。


庭には薬草。

小さな畑。

窓辺には、いくつもの瓶。

中には、淡い光を宿した石が並んでいた。


その家の前を。

ひとりの少女が歩いている。

妖精がアメジスト色の髪の毛先に触れ、風に揺れる。


少女は籠を抱え。

庭の植物を眺めながら時折、足を止めては何かを摘んでいる。


その周囲を。

妖精や精霊が飛び回っていた。


「……これくらいかな」


少女――理永が、小さく呟く。

花の妖精が、その隣でくるりと回る。


「うん。分かった」


理永は笑っていた。


いつもの朝。

いつもの暮らし。


何も変わらない。


その様子を。

森の奥から、ひとりの男が見ていた。


由良。


長い黒髪に。

人間とは違う、静かな気配。


そして。

長い年月を生きてきた者だけが持つ、深く深紅の瞳。


由良は、ただ見ていた。

声をかけることはない。


近づくこともしない。


ただ。

そこにいることを確認する。


それだけだった。


「…………」


理永が庭の奥へ消えるのを見届ける。


由良は、その姿を追わなかった。


もう。


知っている。

あの子は、何も知らない。


前世のことも。

自分が誰なのかも。

なぜ生まれたのかも。


何も。

それでも。


由良は、目を閉じる。


――また。

生まれてきた。


それだけでよかった。


けれど。

胸の奥には、いつもの感情が残っている。


ほんの僅かな。


期待。


――今回は。


どうだろう。


由良は、静かに目を開いた。


―――――――――――――――――――


あの言葉を受け取ってから。


長い時間が経った。


『……探して』


理永が残した、最後の言葉。


由良は、それを信じた。


必死だった。


何処へ行けばいいのかも分からない。


いつ生まれるのかも分からない。


どんな姿なのかも分からない。


ただ。

縋るように。


その言葉だけを信じて。

探し続けた。


そして。

最初の理永を見つけた。


最初の再会は

小さな農村だった。


人間の子供たちが走り回っている。

その中に。

ひとりの少女がいた。


由良は遠くから駆け寄る。


アメジスト色の髪と瞳。


間違えるはずがない。


「…………理永」


声に出した。


少女が振り返る。


由良は、歩み寄った。


「理永!」


少女が不思議そうに見上げる。


「……誰?」


その一言で。


由良は足を止めた。


「…………っ」


分かっていたはずだった。


けれど。

実際に聞くと。


胸が痛んだ。


「俺のこと……覚えていないのか?」


少女は訝しげに首を傾げる。


「……?」


周囲の大人たちも、不審そうにこちらを見る。


当然だった。

突然現れた男が。

知らない少女に名前を呼び。


前世の記憶を尋ねている。

どう考えても怪しい。


「……いや」


由良は一歩、後ろへ下がった。


「すまない」


少女はまだ、困った顔をしている。


由良はそれ以上、何も聞かなかった。


ただ。

ひとつだけ分かった。


転生はしている。


けれど。

記憶は、引き継がれていないようだった。


それから。

由良は、探した後の接し方を変えた。


名前を呼ぶことも。

過去を尋ねることも。

しなくなった。







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