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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第8章 | 『リエル』
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(4)龍神の夜

夜は、龍神殿にだけ平等に降りる。

灯りが消え、祈りの声も途絶え、

世界が一日の呼吸を終えた頃――

リエルは、ようやく独りになる。

静けさは、完全ではない。

遠くで何かが軋み、

どこかで均衡がわずかに遅れている。

けれど、それでも――

今日も、致命的には崩れていない。

「うん。上出来」

誰に向けたわけでもない言葉が、

夜気に溶けて消える。

リエルは、自分の胸元に手を当てる。

そこにあるはずの感触が、少しだけ足りない。

痛みではない。

喪失とも違う。

**慣れ親しんだ“軽さ”**だ。

龍鱗が、また一枚。


いつの間にか、彼女の一部は、

もう“彼女”だけのものではなくなっていた。


それを数えることは、しない。

数える意味がないからだ。

必要だった。

それだけで、理由は十分だった。


夜の奥で、

秤が、わずかに揺れた気がした。

釣り合いは、まだ保たれている。

完璧ではない。

だが、崩れてもいない。


「今日も、ぎりぎり」

リエルは笑う。

その声は明るく、軽く、

まるで昼の続きのようだった。


視線が、自然と煉獄の方角へ向く。

理由は、分かっている。

そこに、彼がいるからだ。

名は呼ばない。

呼ばなくても、分かっている。

――澄んでいてほしい。

ただ、それだけ。


世界がどうなろうと、

自分がどれほど削れようと、

その願いだけは、変わらない。

リエルは、夜の中心で微笑んだ。

龍神として。

誰にも見られないまま。

そしてまた、

何事もなかったように――

明日のための均衡が、辛うじて保たれる。


―――――――――――――――――――


それは消失ではない。

死でもない。

リエルはただ、

望んだ形で、そこに「還る」ことを選んだだけだ。

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