(11)反応
(視点︰少女)
夜、灰の塔は静まり返り、窓の外には淡い月明かりが広がっている。
少女は机の上へ資料を重ねると、小さく息を吐いた。
「今日はここまでかな……。」
長い一日だった。
理永の研究。
由良との会話。
新しい仮説。
少しずつだが、確かに前へ進んでいる。
少女は立ち上がり、部屋の奥へ視線を向けた。
そこには、静かに揺れる金色の炎。
ここ数日、何度も観測してきた光だった。
「……」
少女は炎の前へ歩いていく。
そっと手を伸ばす。
熱くはない。
それでも、生き物のような温もりだけが伝わってくる。
「あなたは……。」
自然と声が零れる。
「何を見ているの?」
返事はない。
ただ、静かに揺れているだけ。
少女は目を閉じる。
今日まで積み重ねた観測を、一つずつ思い返す。
観測記録はまとめ終えた。
仮説も整理した。
理論の穴も見つかった。
今できることは、もう終わっている。
「……なのに。」
まだ何かが足りない。
その感覚だけが、胸に残っていた。
――ふわり。
金色の炎が、いつもより少しだけ大きく揺れた。
「……!」
少女は目を開く。
炎はすぐに元の大きさへ戻る。
「今のは……。」
偶然。
そう思おうとする。
けれど。
胸の鼓動だけが、少し速くなっていた。
少女は慌てて観測帳を開く。
『由良の過去を思考中、反応増加。』
羽根ペンが走る。
そして、その手が止まった。
「違う……。」
少女は首を傾げる。
正確ではない。
思い返してみる。
炎が揺れたのは。
由良が人だったことを考えた時でもない。
術式のことでもない。
『守るために。』
その言葉が浮かんだ瞬間だった。
少女はその一文へ、静かに線を引く。
「どうして……?」
答えは出ない。
理論では説明できない。
観測結果だけが、また一つ増えていく。
塔の中は静かだった。
金色の炎も、もう穏やかに揺れている。
少女は観測帳を閉じ、小さく息を吐いた。
「また……謎が増えた。」
そう呟きながらも。
その表情は、不思議と少しだけ嬉しそうだった。




