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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第45章|『原初の魔女』
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(2)慰め

森の空気が、静かすぎた。


さっきまで土をかけていた場所が、

もう、ただの地面に見える。


そこにあるはずのものを、

目で追おうとして――やめた。


老魔女は、長く生きていた。


魔女の寿命は、人とは違う。

終わりは遠く、そして静かに訪れるものだと、

理永は知っている。


死は巡るものだ。

形を変えて、またどこかに還る。


――そう、理解している。


けれど。

胸の奥にあるこの感覚に、

名前がつけられなかった。


息を吸うたび、何かが引っかかる。

静かなはずの世界が、どこかだけ欠けている。


「……どうして」

小さく、こぼれた。

少し遅れて、

自分の中にその言葉が落ちる。

分からない。

理屈は、知っているのに。


これはきっと、間違った感情じゃない。

けれど、正しく扱う方法も知らなかった。


理永は、ただその場に立ち尽くす。


――これが

初めての、別れだった。


「……理永」


声がして、ゆっくりと振り向く。

由良が、そこにいた。


何も言わずに近づいてくる。

足音すら、静かだった。


理永は、少しだけ目を伏せる。

「……分からないの」

かすかな声。


「知ってるはずなのに」


死は巡るものだと。

終わりではないのだと。


それでも。

「……ここに、いない」


それだけで、 胸の奥が静かに崩れる。

由良は、何も否定しなかった。


ただ、そっと手を伸ばす。

理永の肩に触れ、ゆっくりと引き寄せる。


拒む理由が、見つからない。

理永は、ほんの一瞬だけ迷って――。

そのまま体を預けた。


温もりが、理永を包む。

“ここにいる”という感覚に、わずかに息がほどけた。


「それでいい」

低く、静かな声。


「分からなくていい」

その言葉は、優しく落ちた。


答えを与えるでも、導くでもなく、

ただ、そこにあるものを肯定するように。


理永は目を閉じる。


胸の奥にあった違和感が、

少しだけ形を持つ。


――悲しい。

ようやく、そう思えた。


同時に、涙がこぼれる。

静かに、止まることなく流れる。


由良は何も言わない。

ただ抱きしめたまま、離さない。

急かすこともなく、慰めすぎることもなく、

ただそこにいる。

それが、何よりも確かだった。


どれくらいそうしていたのか、分からない。


やがて、理永は小さく息を吐いた。

少しだけ、力を抜いて。

「……ありがとう」

かすかな声。


由良は答えない。

ただ、わずかに腕に力を込める。

その動きは、静かで、揺るがなかった。


――終わりは、来る。

それでも。

この手を、離さないと。

——互いに、そう思ったように。





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