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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第44章|『ベラトリス 』
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(4)運命の出会い

銀の魔女ベラトリスはよく笑う魔女だった。


長い灰銀の髪。

整った顔立ち。

人目を引く、美しさ。


だがそれ以上に、人を惹きつけるのは彼女の明るさだった。

魔女の多くは孤独を好む。

研究に没頭し、人と距離を置く。

けれどベラトリスは違った。


「理永、また本読んでるの?」


石造りの研究室で、本に顔を埋めていた少女が顔を上げる。


「またって、さっきの続きよ」

理永は本のページを指で押さえた。


「さっきもその前も本だったじゃない」

ベラトリスは机に肘をつき、からかうように笑った。


理永は小さくため息をつく。


「魔女は研究するものよ」

「たまには外に出なさいよ」

「ベラトリスみたいに?」

「そうよ」


ベラトリスは胸を張った。


「世界は広いんだから」

窓の外の森を指差す。


理永は少しだけ笑う。

「あなたが言うと説得力があるわね」


二人は昔からの親友だった。

魔法を学び始めた頃からずっと一緒にいた。


性格は正反対。

理永は物静かで、慎重で、研究肌。

ベラトリスは自由で、行動的で、感情に素直。

それでも不思議と相性はよかった。


理永が言う。

「あなたが外に連れ出すから、私も世界を見ることが出来るのよ」


ベラトリスは笑う。

「でしょ?」


そして軽く肩をすくめる。

「親友なんだから当然よ」

ベラトリスはそう言って笑った。



彼と出会ったのは――

それから、少し後のことだった。


―――――――――――――――――――

その日も、ベラトリスは理永を連れ森の外へ出ていた。


「今日はどこまで行くの?」

理永が少し困ったように聞く。


ベラトリスは振り向きもせず歩きながら言った。

「知らないわよ」

「知らないって……」


「行きたいところまで行くの」


振り返り、にやりと笑う。

「それが旅でしょ?」


理永はため息をついたけれど、結局ついてくる。


森を抜ける。

小さな街道に出た。人間たちが行き来する道だ。


魔女が人里に近づくことは珍しい。

けれどベラトリスは気にしない。


「ほら見て」

彼女は楽しそうに指をさす。


荷車。

旅人。

行商人。

「みんな、どこかへ行こうとしてる」


理永は少しだけ目を細めた。

「人間って忙しそうね」

「生きてるって感じするでしょ?」

ベラトリスは笑う。


その時だった。


ふいに、風が吹いた。

木々がざわめく。


その向こうに、人影があった。


街道の端に、一人の男が立っていた。

黒い髪。 黒い外套。

旅人のようにも見える。 けれど、どこか違った。


そこだけが静かだった。

周囲の空気が、少し張りつめている。


男はゆっくり顔を上げる。

その目が、ベラトリスと合った。


一瞬だった。


たったそれだけのことなのに――

胸が、跳ねた。


理由なんて、分からない。


魔力でもない。 呪いでもない。

ただ、目が合っただけ。

それだけなのに。

「……」

ベラトリスは、なぜか目を逸らせなかった。


隣で理永が言う。

「どうしたの?」

ベラトリスは答えない。


男は静かにこちらを見ていた。

感情の読めない目。

けれど、どこか優しい光。

その視線が、不思議と離れない。


やがて男は小さく笑った。

「魔女か……」

低い声だった。

ベラトリスの胸が、また少し跳ねる。

「そうよ」

気づけば答えていた。


男は少しだけ首を傾げる。

「珍しいですね」

「何が?」

「こんなところで魔女に会うのは」

ベラトリスは肩をすくめた。

「世界は広いんだから」

男は、少しだけ楽しそうに笑った。

その笑顔を見た瞬間。

ベラトリスは思った。


――綺麗。


それは顔立ちのことだけではなかった。

もっと、別のもの。

言葉に出来ない何か。

胸の奥が、ふっと揺れる。

理由なんて分からない。

こんな風に誰かを見たのは、初めてだった。


ただ――


その瞬間。


ベラトリスは、恋に落ちていた。




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