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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第44章|『ベラトリス 』
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(2)幼少時代

ベラトリスは、幼い頃から自分に自信があった。


魔力は強く、魔法の習得も早い。

同じ年頃の魔女たちより、いつも一歩先に進んでいた。


炎を生み出すのも、水を操るのも、難しい魔法陣を覚えるのも、彼女にとっては特別なことではない。


「すごいわね、ベラトリス」


師である老魔女がそう言うと、彼女は胸を張った。


「当たり前よ」


少しだけ得意げに笑う。


自分が特別なのは、ずっと前から分かっていた。

魔女の中でも、きっと自分は強い方だろう。

将来は偉大な魔女になるに違いない。

そんな確信を、疑ったことはなかった。


その日も、森の奥の小さな空き地で魔法の練習をしていた。

指先に魔力を集める。


「――火」

小さく呟くと、掌の上に赤い炎が生まれた。


炎は安定している。

揺れも少なく、綺麗な形を保っていた。


ベラトリスは満足そうにそれを見つめる。

「ほら、できた」


少し離れた場所で本を読んでいた少女に声をかける。

アメジスト色の髪の、小柄な少女。

理永だった。


「……うん」

理永は顔を上げて、静かに頷く。

それだけ。


ベラトリスは少し不満そうに眉をひそめた。

「もっと驚きなさいよ」

「驚いてるよ」

「全然そう見えない」


理永は本を閉じて立ち上がる。

そして、ベラトリスの炎を少しだけ覗き込んだ。


「きれい」


その言葉は本心だったのだろう。

けれど、声はどこまでも穏やかで、感情の起伏があまりない。


ベラトリスは腕を組んだ。

理永は、昔からこんな子だった。


魔法の才能はあるらしいけど、自分のように積極的に魔法を使うわけでもない。


むしろ、本ばかり読んでいる。


古い魔法書や、研究書。

難しい理論の本を、いつも静かに読んでいる。


「魔法の練習、しないの?」


ベラトリスが聞くと、理永は少し考えてから答えた。


「するよ」


「いつ?」


「そのうち」


「そのうちって、いつよ」


ベラトリスは呆れた顔をする。

理永は少し困ったように笑った。


「ベラトリスみたいに上手くできないから」


「当たり前でしょ」


ベラトリスは即座に言った。


「でも練習すればできるようになるわよ」


そして、炎を指先で消す。


「ほら、やってみなさい」


理永は少し戸惑った顔をした。


「今?」


「今」


ベラトリスは腕を組んで待つ。


理永はゆっくりと息を吸い、手を前に出し、

ぎこちない動きで魔力を集める。


ベラトリスは思った。

(きっと小さい火だろう)


理永の魔力は強いが、制御はまだ未熟だ。

安定した炎を作るのは難しいはずだ。


理永の指先に、静かに光が集まる。

次の瞬間。

ぽっと灯った炎は――


赤ではなかった。


「……え?」


ベラトリスの目が大きく開く。


理永の掌に浮かんでいたのは、

金色の炎だった。


柔らかく、静かに揺れる光。

普通の火とはまるで違う。

熱というより、光に近い。

まるで小さな星が灯っているようだった。


「なに、それ」

思わず声が出る。


理永は自分の手の中の炎を見つめていた。

少し不思議そうに。


「わからない」


「普通の火じゃないじゃない」


ベラトリスは思わず一歩近づいた。

炎は不思議な光を放っている。

暖かい。

でも、燃え広がる気配はない。


その時、背後から静かな声がした。

「……祝福の火よ」


振り向くと、老魔女が立っていた。

いつからそこにいたのか分からない。


ベラトリスは目を瞬かせる。

「祝福?」


老魔女は理永の炎を見つめながら言った。

「原初の魔法よ」


その言葉の意味を、ベラトリスは完全には理解していなかった。


でも――

胸の奥で、何かが少しだけ揺れた。

ほんの小さな感覚。

名前もつかない感情。


理永は炎を消し、少し困った顔で言った。

「変な火だよね」


ベラトリスはすぐに言い返した。

「変じゃないわよ」


自分でも、なぜそう言ったのか分からなかった。

「……すごい火よ」


理永は少し驚いた顔をする。


「そうかな」


「そうよ」


ベラトリスはそっぽを向いた。


胸の奥が、ほんの少しざわついている。

それが何なのか、この時の彼女にはまだ分からなかった。


ただ一つだけ確かなことがあった。

自分は、ずっと特別だと思っていた。

でも――

もしかしたら。

本当に特別なのは。


「……理永」


気づかないうちに、名前を呼んでいた。

理永は振り向く。


「なに?」


ベラトリスは少し考えてから言った。

「次はもっと大きい火、出してみなさいよ」


理永は小さく笑った。

「うん」


森の空き地に、二人の少女の声が響く。



その頃のベラトリスは、まだ知らなかった。

この少女が。

自分の人生を変えるほどの存在になることも。


そして――

いつか、自分が。

この少女の運命を、大きく狂わせてしまうことも。




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