(1)「青銀の火」と「金の火」
(視点:老魔女)
昔むかし、まだ魔女が少数しか存在しなかった時代。
山奥の小さな家の窓辺で、老魔女は静かに紅茶を飲んでいた。
白く濁った湯気が、ゆっくりと空へほどけていく。
窓の外では、幼い少女が二人、庭の石の上に座っていた。
掌の上に灯された、小さな炎。
青銀の火と、金色の火。
二つの炎が、ゆらゆらと揺れている。
まだ不安定な魔力の証。
「……また揺れているわね」
老魔女は小さく呟いた。
その声は優しい。
けれど、どこか遠い。
灰銀の髪の少女は炎を見つめたまま言う。
「さっきも揺れました」
「そう」
「報告したほうがいいでしょうか?」
老魔女は少しだけ笑った。
「炎が揺れるくらいで報告する魔女なんていないわ」
少女たちは少し考える。
「……でも、危ないかもしれないです」
「危なくないわ」
老魔女はゆっくり首を振った。
「炎はね、揺れるものなのよ」
アメジストの髪の少女が首を傾げる。
「でも先生の炎は揺れてません」
老魔女の視線が、少女たちの炎に落ちる。
金色。
――祝福の火。
青銀。
――時の火。
その光は、まだ小さい。
けれど確かに、世界の理に触れている炎だった。
老魔女は目を細める。
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(視点︰ベラトリス)(現在)
遠い記憶が、ゆっくりと浮かび上がる。
(……昔)
自分にも、親友がいた。
アメジストの髪を持つ魔女。
誰よりも真面目で、誰よりも研究熱心。
そして。
――誰よりも、優しかった魔女。
ベラトリスは静かにカップを置く。
あの日。
たった一言で、すべてを壊した。
「……」
その名前は、誰にも聞こえないほど小さかった。
窓の外で、少女の炎がまた揺れる。
金色の火。
ベラトリスは、かつての師の言葉を思い出し、静かに目を閉じた。
(炎はね)
(揺れるものなのよ)
あの日。
揺れていたのは――
炎ではなく。
人の心だった。




