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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第44章|『ベラトリス 』
186/193

(1)「青銀の火」と「金の火」

(視点:老魔女)


昔むかし、まだ魔女が少数しか存在しなかった時代。


山奥の小さな家の窓辺で、老魔女は静かに紅茶を飲んでいた。

白く濁った湯気が、ゆっくりと空へほどけていく。


窓の外では、幼い少女が二人、庭の石の上に座っていた。

掌の上に灯された、小さな炎。

青銀の火と、金色の火。

二つの炎が、ゆらゆらと揺れている。

まだ不安定な魔力の証。

「……また揺れているわね」

老魔女は小さく呟いた。

その声は優しい。

けれど、どこか遠い。


灰銀の髪の少女は炎を見つめたまま言う。

「さっきも揺れました」

「そう」

「報告したほうがいいでしょうか?」

老魔女は少しだけ笑った。

「炎が揺れるくらいで報告する魔女なんていないわ」


少女たちは少し考える。

「……でも、危ないかもしれないです」

「危なくないわ」

老魔女はゆっくり首を振った。

「炎はね、揺れるものなのよ」


アメジストの髪の少女が首を傾げる。

「でも先生の炎は揺れてません」


老魔女の視線が、少女たちの炎に落ちる。

金色。

――祝福の火。

青銀。

――時の火。

その光は、まだ小さい。

けれど確かに、世界の理に触れている炎だった。

老魔女は目を細める。


―――――――――――――――――――

(視点︰ベラトリス)(現在)


遠い記憶が、ゆっくりと浮かび上がる。

(……昔)

自分にも、親友がいた。

アメジストの髪を持つ魔女。

誰よりも真面目で、誰よりも研究熱心。

そして。

――誰よりも、優しかった魔女。


ベラトリスは静かにカップを置く。

あの日。

たった一言で、すべてを壊した。


「……」

その名前は、誰にも聞こえないほど小さかった。

窓の外で、少女の炎がまた揺れる。

金色の火。


ベラトリスは、かつての師の言葉を思い出し、静かに目を閉じた。

(炎はね)

(揺れるものなのよ)


あの日。

揺れていたのは――

炎ではなく。

人の心だった。



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