(4)揺れる金の火
夕方の光が、灰の塔の窓から差し込んでいた。
机の上には、今日書かれた記録がまた一枚増えている。
少女は背もたれに体を預け、小さく息を吐く。
「……今日はここまでかな」
羽ペンを置き、軽く肩を回す。
窓の外では空が赤く染まり始めていた。
塔の中は静かだ。
いつも通りの一日。
研究と観察だけの時間。
少女はふと、机の端に置いてあった小さな箱を開いた。
中には実験用の対象がいくつか入っている。
小石。
草。
乾いた枝。
そして――
小さな羽虫。
「……あ」
少女は少し困った顔をする。
(箱から出してあげないと……)
虫はほとんど動いていない。
羽は閉じられ、弱々しく机の上に横たわっている。
「あっ、閉じ込めてごめんね」
「もう寿命かな……」
少女は小さく呟いた。
生き物に干渉することは、あまりしていない。
けれど――
少女はそっと指先に火を灯した。
金の火。
小さく揺れる光。
「……少しだけ」
火を近づける。
いつもと同じように。
ほんのわずかな距離で。
その瞬間だった。
金の炎が――
ふわりっと大きく揺れた。
「……え?」
少女の手が止まる。
炎が、いつもより強く光っている。
ゆらゆらではない。
まるで引き寄せられるように、虫の方へ揺れた。
「なに……?」
少女が目を瞬かせる。
炎が虫に触れた、次の瞬間。
小さな羽が、ぴくりと動いた。
「……!」
虫はゆっくりと体を起こし、
小さく羽を震わせた。
そして。
何事もなかったかのように、窓の方へ飛んでいった。
少女はしばらく動けなかった。
「……今の、なに?」
机の上には、何も残っていない。
ただ夕日の光だけが差し込んでいる。
少女は自分の手を見る。
金の炎は、もういつも通りの小さな揺らぎに戻っていた。
「……偶然?」
ぽつりと呟く。
その時。
背後でベラトリスが静かに立っていた。
少女は気づいていない。
だがベラトリスの目は、少女の手元を見つめている。
(……今のは)
胸の奥が、重く沈む。
(まさか)
金の炎が揺らぎ。
反応。
そして。
命に触れた瞬間。
ベラトリスはゆっくり目を閉じる。
(……まだ早い)
小さく息を吐く。
(まだ、気づかなくていい)
窓の外では、虫が空へ飛んでいった。
少女はまだ、机の前で考え込んでいる。
金の炎は、少女の指先で静かに揺れていた。
まるで――世界の奥に触れるように。
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