閑話Ⅲ|それぞれの夜
会議は終わった。
結論は出た。数字も決まった。
世界は、今日も「保たれる」ことになった。
それでも夜は、等しく訪れる。
***
炎を司る眷属は、灯を落とさなかった。
闇が濃くなるほど、炎は必要だと知っているからだ。
それでも、揺れる火を見つめながら、
「あと少し遅れていたら」と考えることをやめられない。
その思考に、意味はない。
だが、消すこともできなかった。
***
水の眷属は、器に満たした水面を見下ろしていた。
溢れなかった。
溢れなかったことが、なぜか胸に刺さる。
「止められた」という事実と、
「止めきれなかった」という感覚は、
同じ形をしていない。
静かな水音だけが、夜を刻んでいく。
***
風の眷属は、眠れずに外へ出た。
空は変わらず星を抱いている。
——まだ、落ちていない。
それだけで安堵し、
それだけでは足りないと理解してしまう。
守るべきものが、
もう「全て」ではなくなったことを、
風は誰よりも早く察していた。
***
土の眷属は、動かなかった。
座したまま、ただ地に手を置く。
震えは、遠くから伝わってくる。
地は嘘をつかない。
だからこそ、聞こえてしまう。
——まだ終わっていない。
***
誰も泣かなかった。
誰も叫ばなかった。
誰も、決定を覆そうとはしなかった。
それぞれが、
それぞれの夜で、
それぞれに、少しずつ崩れていった。
そして翌朝には、
また“眷属”として立ち上がる。
それが、
この世界を支える者たちの夜だった。




