(4)炎の間に
塔の広間は、朝の光に満ちていた。
窓から差し込む光が、石の床に静かに揺れる帯を作る。
少女は床に座り、手のひらの上で小さな金の炎を揺らしていた。
それはまだ弱く、ふらふらと消えそうで、昨日のように暴れ出すこともある。
でも――自分の火だ。確かに、自分の意志で生まれた火。
「……なんで、こんなに違うの」
小さな声。少女は目を細めて、師匠の青銀の炎を思い出す。
あの静かに揺れる、揺らがず燃える火。
触れることもできないのに、心に深く刻まれていた。
指先に集まる自分の魔力を感じながら、少女は考えた。
「どうして、あの火はあんなに揺れないの……」
床に描いた術式をじっと見つめる。
昨日の自分の金の火と比べると、まるで生き物と置物の違いのようだった。
揺れるのは自分の火、制御されるのは師匠の火。
でも――もしかしたら、自分の火も、安定させられるのではないか。
少女の瞳が輝く。
「私の火も、変えられるかもしれない」
そして、ふと別の考えが頭をよぎる。
師匠が研究していた書物、魔法の理論――
祝福の魔法、吸血鬼の血のこと、灰の魔女が長い時間をかけて積み上げてきた知識。
幼いながらも、心が弾んだ。
「もっと知りたい……」
少女は小さく息をつき、机の上の資料に目を向ける。
文字の意味はまだ完全には分からない。
でも、目に映る魔法陣、術式、符号――
心の奥で、小さな問いが芽生える。
「私の火は、どんな力と結びついているのだろう」
「師匠の青銀の火とはどう違うのだろう」
それらが自分の火とどう関係しているのか、確かめてみたい。
青銀の火は、ただ制御された炎ではない。
守るための火、理論で形作る火。
それを見た瞬間、少女の中に小さな問いが生まれた。
「金の火は、どんな力と関係しているのかな……」
師匠が見せた、青銀の火を思い出す。
「守る火……私は、私の火で何が出来るのだろう」
少女は手を握る。
小さな金の火は、まだ揺れる。
でも、今までと少し違った。
観察する目で、炎を見る。
炎の振る舞いに新しい意味が生まれた。
ベラトリスは背後で静かに見守っていた。
少女の手の動き、目の輝き、眉間に小さな皺。
そのすべてが、成長の兆しであることを知っている。
「……あの子は、金の火をどう使うのか」
小さくつぶやく灰の魔女。
瞳の奥には、わずかな期待と、長年抱えてきた後悔が混ざっている。
「自分の力を、理解する日は、そう遠くないね」
少女は再び呼吸を整え、手のひらに集中する。
金の炎は小さく揺れながらも、確かにそこにある。
そして、心の奥で芽生えた研究心――
青銀の火を追い、金の火を極める旅が、今、静かに始まったのだった。




