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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第40章|幼き魔女の旅立ち
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(6)七日間の試練 ― 後編

五日目の夜。

嵐は容赦なく森を叩いた。


枝葉は激しく揺れ、雨は横殴りに打ちつける。

少女の組んだ簡素な寝床は、あっけなく崩れた。

息が詰まるほどの冷気。

服は瞬く間に重くなる。


それでも少女は歯を食いしばり、木々の間に簡易の結界を描いた。

不完全な円。揺らぐ光。お


「……持って」

震える声。

術式は未熟だが、雨脚をわずかに和らげた。

一晩中、魔力を削り続ける。

夜明け頃、少女は膝をついた。



六日目


熱がある。指先が痺れる。

体は軽いのに、足は重い。


それでも、水を汲みに行く途中だった。

足を止める。


茂みの奥で、小さな鳴き声。

覗けば、罠にかかった子狐がいた。

足に血が滲み、もがくたびに傷が深まる。


少女は立ち尽くす。

食料になる。

今の自分には、必要な肉だ。

視線が揺れる。

喉が、乾いた音を立てた。


「……私も、生きたい」

ぽつりと落ちた本音。


子狐が震えながら目を向ける。

怯えきった、小さな命。


少女は唇を噛みしめる。

「でも……怖いよね」


ゆっくりと近づき、罠を外す。

自分のローブの端を裂き、止血する。

手は血で汚れる。


子狐は、ふらつきながら森の奥へ消えた。


その場に残されたのは、

空腹と、冷えた体だけ。



塔の最上階。

灰の魔女は、目を閉じた。


――愚かだ。


生き延びるだけなら、選択は違った。


それでも。

胸の奥に、焼けるような痛みが走る。

あの背中を、知っている。

損得では動けない。

見てしまったら、放っておけない。


変わらない。


あの子はきっと、この先も。



七日目の朝


少女は立っていた。

顔色は悪い。体はふらついている。

それでも、倒れてはいない。

塔の扉が軋む音を立てて開く。

灰の魔女が現れる。


「……なぜ助けた」

問いは静かだった。


「……助けたら、私が困るのは分かっています。

でも、助けない理由が、思いつきませんでした」


少し考えてから答える。


「だから、助けました。

見ていられなかったからです」


理屈も計算もない。

ただ、それだけ。

沈黙が落ちる。

森の風が、二人の間を抜ける。

灰の魔女は、少女を見つめる。


痩せた頬。

擦り切れたローブ。

それでも、折れていない目。

確信する。


この子は、優しすぎる。

きっとこれからも。

だからこそ――傷つくだろう。


利用もされる。

裏切られることもある。

それでも、変わらない。

胸の奥で、静かに願う。

今度こそ。

この優しさを、死なせない。



「……七日間だ」

少女の呼吸が止まる。

「生き延びた」


淡々と告げる。

「塔へ戻りなさい」


少女の目が、揺れる。

「弟子にして、いただけますか」


灰の魔女は、ほんのわずかに目を細める。

「条件がある」


低く、静かに。

「優しいままでいなさい。

ただし――死ぬな」


少女は一瞬きょとんとして、そして強く頷いた。

「はい!」

その声は、弱っているのに、まっすぐだった。


灰の魔女は背を向け、塔へと歩き出す。

後ろから、小さな足音がついてくる。

贖罪の塔に、二つ目の灯りがともった。


――今度こそ。

この光は、折らせない。


灰の魔女は思う。

――この子は、あの光とは違う未来を歩かせる。


今度は――守るために。





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