(4)七日間の試練
目を覚ましたとき、天井があった。
少女はしばらく、それが理解できなかった。
森ではない。石段でもない。冷たい地面でもなかった。
乾いた木の匂いと、微かな薬草の香り。
粗末だが清潔な寝台に、自分は横たわっている。
ゆっくりと身を起こした瞬間、視界が揺れた。
「無理に起きなくていい」
低く、静かな声。
部屋の隅、窓辺に立つ女が一人。
銀灰色の長い髪が、朝の光を受けて淡く光る。
こんなに綺麗な色なのに。どうして“灰”なのだろう。
と少女は疑問に思う。
……追い返されたはずなのに
灰の魔女は振り向かず言う
「一晩だけ。それだけの約束だった」
冷たい声音。
だが、少女の体には毛布が掛けられ、卓上には水と硬いパンが置かれている。
少女は震える手で水を掴み、飲み干した。
「ぷはぁっ」
喉が焼けるように痛い。
「……帰れ」
簡潔な言葉。
少女は、唇を噛む。
「帰る場所は、ありません」
声は掠れているが、揺れていない。
「薬草の選別も出来ます。それに掃除や薪割り、なんでもします。だから――」
一度、息を吸う。
「弟子にしてください!」
沈黙。
朝の光が差し込む音さえ聞こえそうなほど、静かだった。
灰の魔女は、ゆっくりと考え込んでいるようだった。
その瞳は、底の見えない色をしていた。
「私は、弟子を取るつもりはない。」
少女は首を振る。
「お願いします」
その目は、まっすぐだった。
かつて見た光と、同じではない。
けれど、とても似ている。
愚かで、真っ直ぐで、諦めが悪い。
灰の魔女は、わずかに目を細めた。
「7日だ」
少女の呼吸が止まる。
「明日から7日間、塔の外で生活してみな。森で生き延びてみせろ。それができなければ帰りなさい」
生き残れない弟子など、作るつもりはない。
試すような声音だった。
少女の目に、確かな火が灯った。
「はい」
その返事は、小さいのに強かった。
灰の魔女は視線を逸らす。
胸の奥で、かすかな疼き。
それは後悔か、期待か。
まだ分からない。
塔の窓から、朝の光が差し込む。
贖罪の塔に、もう一つの影が落ちた。




