(3)止まった時間
夕暮れの光が、校門の向こうに沈みかけていた。
信号は何度も赤と青を繰り返す。
でも、由良の世界では時間が止まったままだった。
周囲のざわめきは遠く、膜の向こうで鳴っている音のようにしか聞こえない。
足音、囁き、サイレン、叫び声。
全部、他人の世界の出来事。
由良の視界には、理永の赤い手だけが残っている。
掴もうとして、
でも届かなかった手。
まだ、そこにあった。温度も感覚も、もうないのに。
風が吹く。
髪を揺らす。
服を撫でる。
でも、由良の感覚は追随しない。
世界は動いている。
由良の中だけ、停止している。
手を見下ろす。
指先に残った赤。
血は乾き、赤は黒へ沈む。
それが、終わりの証だった。
それだけが確かに存在する。
誰かが声をかける。
「由良くん、大丈夫か?」
唇の動きだけが見える。
音は届かない。意味も、届かない。
膝が震える。
でも立ち上がることはできない。
由良の足は、地面に根を下ろしたように固まる。
動こうとする意志さえ、時間の壁に遮られる。
夕陽が落ち、空が茜色に変わっていく。
空気の匂いも、風の冷たさも、世界の色も。
すべては変わる。
でも、由良の内側は変わらない。
理永はもういない。
もう触れられない。
でも、赤い手がそこにある。
由良の記憶の中で、止まったままの形で。
由良は、指を握り締める。
離せない。
触れられないのに、手放すこともできない。
時間だけが進む世界で、
由良だけが、まだあの瞬間に止まったまま立っていた。
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