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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第37章|『冷たい赤』
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(3)すれ違い

放課後の空気は、思ったより冷えていた。


理永は鞄を肩にかけ、教室を出る。

廊下の蛍光灯が、白く眩しい。


疲れているだけ。

面接続きで、余裕がないだけ。

他人の温度を拾いすぎているだけ。


外に出ると、夕方の風が頬を撫でた。

キャンパスの門を抜け


距離は守られていた。

線も越えていない。

何も問題はなかった。


理永は早足でもなく、遅くもなく歩く。

胸の奥は静かだった。


さっきのざわつきは

整理がついた、というより。

諦めに似た納得。


――私が引けばいい。

――これでいい。


由良は悪くない。

誰かに優しくするのは、彼の性質だ。

あの女子も悪くない。

相談しただけだ。


少し距離を置くだけ。

落ち着いたら、また話せばいい。

今は、自分が不安定で、余裕がない。

身を引けば、みんなが楽になる。誰も傷つかない。


信号は赤。

赤い光が、静かに瞬く。

その色に、ふと夢の断片が重なる。


『赤い手』

何かを掴もうとして、空を切る手。

何度も見た。

意味は分からないまま、目覚めてきた。


でも今は、焦りはない。

掴まなくていい。

手放せば、きっと綺麗に収まる。


背後で足音が速まる気配。


名前を呼ぶ声が、遠くで弾ける。


「理永――!」


聞こえている


でも、意味が届かない。


音としては認識している。

それを自分に向けられたものだと処理する前に、

意識が、内側へ沈む。


横断歩道の前。

信号が青に変わる

人の波が動き出す。

一歩、踏み出す。

頭の奥が、わずかに鈍い。


風が強く吹く。

肩が軽く押される。

足元の感覚が、わずかに遠い。

誰かが背中にぶつかる。

「すみません」と小さな声。


――冷静じゃない。

自覚はある。

でも、止まるほどではない。

歩く。

半分だけ、意識が内側にある。

赤い光が、視界の端で揺れた。

「あれ?」

それが信号の残像なのか、

夢の続きなのか、判別がつかない。


次の瞬間。

強い光が、横から差し込む。

タイヤの擦れる音。ブレーキの悲鳴。

時間が、ほんの一拍だけ伸びる。


――ああ。

掴まなかったんだ。

そう思ったところで、衝撃が来る。

音が砕ける。身体が浮く。

空が白く反転する。

夕方の匂いと、アスファルトの冷たさ。

そして、すぐ近くで。

背後で、もう一度声がする。

「理永――!」

今度ははっきり焦りを帯びている。

けれど、その声は遠い。

水の底にいるみたいに、くぐもっている。


あっ、と理永は思う。

赤い手が、視界の端に重なる。

今度は掴もうとしない。

ただ、開いたまま。


自分のものだと、わかる。

何かを掴もうとしている。


掴みたかったのは――


胸の奥に、ほんの小さな傾きが残る。


――言えばよかった?


嫉妬じゃない。

不安とも少し違う。


ただ、


疲れてる、って。

ちょっとしんどい、って。


それだけでよかったのに。




視界が、ゆっくりと滲む。


ごめんね。





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