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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第36章|白昼のざわめき
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(2)教室のざわめき

朝の空気は冷たく、窓から差し込む光が白く教室を照らしていた。


理永は、いつも通りの自分の席に座る。

鞄を置く音が、なぜか遠く感じる。


「理永」


顔を上げると、由良が立っていた。

ああ、そうだ。由良。


「おはよ」

少し遅れて返す。


「おはよ……大丈夫?」


「何が?」

即答のつもりだった。けれど声が、少しだけ半拍遅れていた。


由良はじっと見る。

「昨日、図書館いたでしょ」


理永の指先が止まる。

白い蛍光灯。資料のページ。湊の声。


湊?

……いた?

湊がいた?


「……いたっけ」


口が勝手に出た。


記憶はある。でも、それが自分のものか、少し曖昧。


由良の眉が動く。

「いたよ。湊も見たって」


胸の奥で、何かがざわつく。

安心。違和感。両方。


「そっか」

笑ったはずなのに、頬の動きがぎこちない。


由良が小さく息を吐く。

「理永、最近ちょっと変」


「変?」

「反応が遅い」


胸の奥で、何かが揺れる。

遅い? いや、ちゃんと考えてるだけ……。


……考えてる?

思考の途中で、視界が少しだけ白く途切れる。


「そんなことないよ」

言葉は出る。でも、自分の中に届かない。


教室のざわめきが広がる。

笑い声。椅子の音。

全部、膜を一枚挟んで聞こえる。


由良がそっと呼ぶ。

「理永」

声が、やけに近い。

近すぎる。


一瞬、知らないはずの感情が胸に触れた。

不安と焦り。

“どうしよう”という重たい気配。


それが由良のものだと、なぜか分かる。


視界がわずかに揺れる。

自分の感覚と、誰かの感覚が重なる。

境目が曖昧になる。

息が浅くなる。


「……大丈夫、だよ」

今度は少しだけ重く、でも言葉は確かに届く。


由良は納得していない顔をしたまま、席に戻る。

理永は机に視線を落とす。

ノートの罫線が、いつもよりわずかに揺れて見えた。


自分はここにいる。

ここにいるはず。

……なのに。


胸の奥で、微かにざわめく感覚が残った。

誰かがそっと笑ったような、そんな気配と一緒に。





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