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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第36章|白昼のざわめき
155/202

(1)白い空白

講義が終わると、教室は一気に騒がしくなった。

椅子を引く音、就活用の資料を鞄に詰める音、

「次どこ説明会だっけ?」なんて声。

いつも通りの光景。


――なのに、由良の中だけ、何かが置き去りにされたままだった。


窓際の席。

最後まで、空いたまま。

「……」


由良は立ち上がるのが遅れた。


「由良」

湊が声をかける。


「今日、午後ヒマか?」

「……面接、一本」

「そっか」



「じゃあ、その後でいい。理永んとこ、行こうぜ」

由良が湊を見る。


「家?」

「ああ。ゼミも就活もサボるタイプじゃねーし」

言い切りだった。


湊は軽い口調のままだけど、

視線は笑っていない。


「昨日の図書館もさ」


歩きながら、ぽつりと言う。


「いつもなら俺に気づいた瞬間、軽く手振るんだよ」

「……」

「でも昨日は、俺が声かけるまで気づかなかった」


由良の歩幅が、ほんの少しだけ乱れる。


「それで?」


「声かけたら、ちゃんと笑った」

湊は肩をすくめる。


「笑ったんだけどさ……」

言葉が途切れる。


「“今ここ”にいない感じ?」


由良は何も言わない。

言えない。

(それ、俺も感じてる)

理永と話すとき、

言葉は噛み合っているのに、

どこか一拍遅れる。


触れたら、すり抜けそうな感覚。

「なあ由良」


湊が少しだけ声を落とす。


「最近、理永さ――由良の話、あんましなくなかった?」


由良の胸が、きゅっと縮む。


「……就活で忙しいだけだろ」


即答だった。

自分に言い聞かせるみたいに。

湊はそれ以上突っ込まない。


「ま、そうだよな」


軽く笑う。


「俺たち、もう学生じゃなくなるし」


キャンパスの外に出ると、空は相変わらず白かった。


雲が厚く、影ができない。


由良は足を止める。


「湊」

「ん?」


「理永……大丈夫だよな」


問いというより、願い。


湊は少し考えてから、言った。

「大丈夫かどうかは、俺らが決めることじゃねーけどさ」

由良を見る。


「放っといていい感じじゃないのは、確か」

その言葉だけで、十分だった。

由良は頷く。

「面接、終わったら連絡する」


「おう」

湊は親指を立てる。

「俺様、勘だけは当たるからな」

冗談めかした言い方。


でも、その奥にある本気は、隠しきれていなかった。


由良は歩き出す。

白い空の下で、

胸の奥に、名前のつかない不安を抱えたまま。



――このときはまだ、

誰も気づいていなかった。

それが「理永のほうから」ほどけ始めている「崩れの始まり」だということに。




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