(2)眠るたびに
帰宅すると、理永は鞄を机の横に置いたまま、しばらく動けなかった。
脱ぐ気力もなくリクルートスーツのまま、ベッドに腰を下ろす。
体が、重い。
熱があるわけでもない。
頭が痛いわけでもない。
ただ、芯のあたりが疲れている。
講義は、これから少しずつ減っていく。
その代わりに、増えるものがある。
就職活動。
エントリーシート。
説明会。
面接。
決まらないままの志望先。
「……どうしよう」
小さくつぶやく。
最近、うまくいかないことが多い。
集中できない。
言葉がまとまらない。
今日も、面接の日程調整のメールを打ちながら、何度も同じ文を消した。
体調が悪いのだろうか。
由良や湊に心配されるくらいには、顔に出ているのかもしれない。
そう考えると、少しだけ焦りが募る。
休まなければ。
そう思って、横になる。
目を閉じる。
すぐに、意識は落ちた。
――暗い。
夢だと分かる前に、そこに立っている。
灰色の空間。
足音が、遠くで響く。
背中。
あの、背中。
今度は、少し近い。
「待って」
声を出したつもりなのに、音にならない。
その人の肩が、わずかに震える。
振り返る。
目が、合う。
見覚えのないはずの顔。
それなのに。ひどく、胸が痛む。
孤独。
責められた跡のような影。
あかいろが、足元ににじむ。
「違う」
今度は、はっきり言葉になった。
止めなければ。
手を伸ばす。
触れる寸前――
目が覚めた。
天井。
自分の部屋。
息が荒い。
胸が、締めつけられている。
時計を見る。
まだ、そんなに時間は経っていない。
眠ったはずなのに。
体は、少しも軽くならない。
むしろ。
何かを持ち帰ってしまったみたいに、重い。
理永は、ゆっくりと起き上がる。
喉が渇いている。
手のひらを見つめる。
そこには何もあるはずがない。
なぜか、その感触を知っている気がしてならない。
それでも、色が残っている気がする。
就活の資料が、机の上に広がったままだ。
現実は、待ってくれない。
「……ちゃんとしないと」
そう呟く声は、わずかに掠れていた。




