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(2)死者数「一億」で止めたという現実
数字は、固定された。
それ以上、増えない。
それ以下にも、ならない。
その数、一億。
それは、成功を示す数字ではなかった。
ただの、境界線だ。
「抑制は、完了しています」
報告の声は、ひどく平坦だった
感情を乗せる余地がない。
止めたのではない。
止めることにしただけ。
その選択が、
どれだけの命を切り捨てたのか。
誰も、口にしない。
「……これで、最悪は避けられた」
誰かがそう言った。
その言葉に、反論は出なかった。
けれど、肯定もなかった。
眷属たちは、それぞれの手を見下ろす。
何も付いていない。
血も、泥も。
それが、いちばん残酷だった。
数字は、見える。
映像も、ある。
それでも――
自分たちが奪った実感だけが、存在しない。
「次が来たら、どうする?」
問いは、誰に向けたものでもない。
一度、境界を引いてしまった世界は、
次も、同じ選択を求める。
九千万でもなく、
一億一千万でもなく。
一億で止めたという事実だけが、
世界の新しい基準になる。
眷属たちは、それを理解していた。
そして同時に、
それが呪いになることも。




